原発は「フェードアウト」できるのか

池田 信夫

小沢一郎氏が嘉田知事という「みこし」をかついだ日本未来の党は、昔の社会党を思わせる何でも反対党だ。その「卒原発」に、橋下徹氏が噛みついた。

僕も府市エネルギー戦略会議に2030年代0の案作成を指示し、それが実行可能なものであれば、それを大阪市の方針として決定する。今は具体案を待っている状態だ。飯田哲也さんが、嘉田知事と組んで、10年後に0にすると言い切った。物凄く心配だ。


おっしゃる通りである。橋下氏がエネルギー政策でも現実主義になったのは歓迎すべきことだが、日本維新の会の「フェードアウト」というのもよくわからない。それが「最終的に原発をゼロにする」ということなら、44トンのプルトニウムをどうするのかという問題に答える必要がある。橋下氏によると「飯田哲也さんは、原発政策が外交政策にもリンクしていることの認識は全くないし、そのような話は聞いたことがなかった」という。

原発をゼロにするなら、日本が核拡散防止条約(NPT)の例外として平和利用に限定して認められているプルトニウムの保有は認められない。それを認める日米原子力協定は破棄され、日本はNPT違反になるので、北朝鮮のように脱退するしかない。それは日本が核武装しないという日米同盟の根幹をゆるがすので、安保条約の破棄も覚悟しなければならない。これが民主党の「原発ゼロ」政策がわずか1週間で撤回された原因だ。嘉田氏と同様、橋下氏もこの矛盾を解決していない。

日本が原子力技術を保有することは、維新の会の石原代表の主張する核武装のオプションをもつ上で不可欠だ。「フェードアウト」はそのオプションをなくし、日本が自前で中国の核兵器に対抗する軍事力を放棄することを意味する。それも一つの政策だが、橋下氏の批判する「空想的平和主義」ではないのか。米軍の核の傘がなくなったとき、国民の安全を守れるのか。

今週のシンポジウムでも議論したように、「原発ゼロ」とか「フェードアウト」などというのは政策ではない。エネルギー全体の社会的コストを最小化するベストミックスを考えるべきで、結果として原発が何%になるかはどうでもよい。シェールガスの価格が下がる一方、原発立地に地元の合意が得られない現状では、日本で新規立地は不可能であり、原発は市場にまかせれば減ってゆく。

問題は、それでいいのかということだ。原発の減る部分は化石燃料で埋めるしかないので、「CO2を90年比25%削減」どころか、東電の昨年の排出量は前年比13%になった。また原発というバーゲニングチップがないので、日本のLNG価格はアメリカの9倍にのぼる。こうしたエネルギー価格の上昇は製造業のコストを圧迫し、その海外移転を促進する。これも橋下氏のいう「成長戦略」と矛盾する。

要するに、直接コストで比較すれば原子力は減ってゆくが、気候変動や大気汚染、あるいは安全保障などのコストを内部化すると、原子力の社会的コストは火力より低いのだ。おまけに外交的にも、原発ゼロは不可能である。石原代表は「フェードアウト」を公約から削除すると言ったそうだが、それが正解だ。原発比率などというものは、政策の目的たりえないのである。