総選挙、まだまだ議論不足です

大西 宏

朝日新聞の世論調査が発表されていました。世論調査は設問の方法や、質問方法によって違いが生まれてきますが傾向は読み取れます。自民党も支持率トップは維持したもののやや低下、維新の会の支持率の伸びが頭打ちになったことが目立っています。自民党が安倍さんが力んでも、掲げている政策への共感が広がらず、維新の会は太陽の党と合流したことで、主張の独自性や明確さが薄れてしまった結果でしょう。とくに維新の会とみんなの党が合流できなかったことは、それぞれにとって大きなマイナスとなっていると感じます。


さて、多党化は、国民の価値観や考え方が多様な現代では自然な流れです。しかも、多党化は、選挙で政権をとった政党内の国民からは見えないところでものごとが決まっていく政治ではなく、国民の選択によって政策が決まる方向への流れであり、好ましいことだと感じます。

保守と革新が思想で争う時代は終わり、現実的な問題解決能力で競い合う時代へ大きく変化したこと、日本が抱えている課題のいずれもが、小手先の政策では解決できないものばかりとなり、なにを問題だと考え、それにどのように取り組み、どのような方法で解決していくかで選択肢も増えます。その考え方や知恵を競い合う時代のなかでは、当然政党の資質や国民への提案の質、問題解決能力が問われてきます。

しかし残念なことに、まだその変化をつかんでいない政党が多いこと、とくに既成政党が、自らの政策を問うというよりも、他の党を批判を押し出していることは、体質の古さを感じさせます。むしろ、自らの政策に自信がなく、揺らぎがあるから、他の党を批判するなかでしか、存在感を示せないという限界を感じさせています。

とくに残念なのは、憲法改正に対する自民党の主張です。自民党は実行できることを公約として掲げたということですが、「国防軍」と言ってしまったために、憲法改正への国民の理解や合意からまた遠ざかってしまいました。センスのなさを感じます。現実に合わせるために、憲法を法解釈でごまかしているとしかいいようのない状態が続くということです。自ら憲法を決める国民の権利をまた奪ってしまったように感じます。朝日新聞の世論調査結果を鵜呑みにはできないとしても、憲法9条を改正して、自衛隊を国防軍にすることに、反対が51%を占めているのは当然の結果でしょう。
朝日新聞デジタル:国防軍「反対」51% 朝日新聞世論調査 :

議論不足、国民の共感不足のなかで、平和路線か、国防強化かというところにもっていってしまう、過去からのアプローチの間違いを繰り返し、結果として憲法を変える気がなくことを示したも同然です。また、国民の意識への感度が低く、実際に問題解決を行なう知恵に欠けていると感じさせます。維新の会も、国民が憲法を自らの意志で変えることができるようにするという主張から、自主憲法制定という自民党が結党以来掲げてきて、結局は実現できなかった加齢臭のする言葉に変えてしまったことで鮮度を失いました。

いずれにしても、今回の総選挙はインターネットの影響もあってか、マスメディアのなかでも、各政党が議論しあう番組を提供するようになってきています。どんどん選挙中もやってもらいたいものです。議論すればするほど、問題解決に対するアイデアの良し悪し、その資質も国民が判断できるようになってきます。

今はマスメディアでは、原発問題にテーマが集中しがちですが、国民の関心事として大きいのは、日本の経済の再生や景気回復です。なにを解決するにしても、経済の活力を再生しなければさらに問題解決を困難にさせます。しかも、政府主導による産業政策、公共工事では有効性がないことは、歴史が証明しているので、新たなアプローチが求めわれていますが、それに対する議論が、問題の深さ、大きさに比べると少なすぎるのです。

これまでは、多くの企業が古い体質のまま、リストラによって、また投資を抑制することで利益をだすということで不況に耐えてきたというのが現実だと思いますが、それでは限界があります。産業の新陳代謝をどう進めるのか、またイノベーションを促すリーダーをどう発掘し、育てていくのか、それによって産業構造を変え、生産性を高めることが王道だと思うのですが、その道筋をそれぞれの政党が示せるのかです。ほんとうの焦点はここにあると思っています。その視点からいえば、まだまだ各政党間の議論が十分とはいえません。

さあ、このコンテストで勝ち残っていくのはどの政党でしょうか。選挙期間を通して、切磋琢磨して、ぜひ構想や政策の深化、また進化をはかってもらいたいものです。もうそろそろ賞味期限の切れそうな日本に政治のイノベーションを持ち込む政党やリーダーが成長してくることを期待します。