僕は現在、リボルバー(Revolver,Inc.)というスタートアップの経営にあたっています。
リボルバーというのは言うまでもなく回転式拳銃のことであり、ある意味一般名詞で、サービス名や企業名にするのは今更感がありましたが、revolver.co.jp というドメインがなぜか取得できたという幸運と、誰でも覚えやすいというメリットを選びました。当初はリボルバーもしくはRevolverと検索しても、僕の会社ではなく、他の企業であったりビートルズの同名のアルバムのことしか検索結果に反映されませんでしたが、ようやく最近、1,2番目に表示されるようになりました。こうなればシメたものです。
ところで、このリボルバーは芸能人などの高い知名度を持つコンテンツホルダーに、自分のブランドでファンとしての消費者との直接的な交流と商流を提供するというビジネスモデルを掲げるベンチャーです。実は最近、同じようなモデルを考えていたんだよ、先にとられて残念だ、ということを何人かに言われました。それ自体は、このアイデアが高い事業性を持つ証左でもあるので宜しいことかと思いますが、反面、アイデアは多発性があるいというか、これはいいぞ!と思うようなことがあれば、必ず世界中に少なくとも数名は同じことを考えているはずであり、あとは誰よりも速く実行に移すという実践力が大事であるとも強調しておきたいと思います。
ソーシャルネットワークサービス(SNS)を大学ごとに提供するというモデルはマーク・ザッカーバーグの独創ではなかったし、スマートフォン市場最大のヒット作であるiPhoneも世界初のスマートフォンというわけではありません。実際Facebookには同時期に同じようなサービスを掲げたライバルが数社あったし、AppleもまたAndroidという酷似したモバイルOSが無料配布戦略をとったことで市場を相当に削られています。
もっと言えば、僕が大好きな電気自動車(EV)メーカーであるテスラモーターズも世界初の電気自動車メーカーというわけではありません。ただセレブが欲しがる高級スポーツカーとしてのEVを創りだして、Googleの創業者たちやアーノルド・シュワルツェネッガー、ジョージ・クルーニーなどのセレブに売り込んでみせたマーケティング戦略は正しいプロトコルでした。そのやり方をみて、同じことを考えていた、という人も多かったと思います。Facebookをビジネスモデルの盗用だと訴えた人たちが何人かいますが、アイデア、特に優れたアイデアには多発性があって、なぜか同時期に多くの人のアタマに降って湧くものだということを誰もが忘れがちです。大事なのはアイデアではなく、そのアイデアを実行に移すスピードのはずなのに。
「インセプション」という映画では、アイデアは最も価値あるものであり、だからそれを盗むというビジネスが成り立っていましたが、その映画でさえ盗むよりもアイデアを他人の心に植え付けること(インセプション)がテーマになっていました。僕たち起業家にとって大事なことはアイデアを生み出すことではなく、アイデアを形にして、周囲の人にも”優れたアイデア”であると思い込ませる努力です。そのためには何をおいても、速く着手して、小刻みでいいから成果を出し続けることが重要になります。
逆に言えば、僕自身も、自分のアイデアに絶大の自信を持つのではなく、アイデアを実際のプロダクトに変えていく速度、そしてそのプロダクトの価値を周囲に認めさせつつ、効率の良い換金方法を創りだす実践力に磨きをかけていく必要があるわけです。
特に今僕が手がけている事業は、ソフトウェアを作ればいいというわけでなく、むしろオフラインでの作戦行動の巧拙が重要かもしれず、上述のような観点を常に忘れないように自戒しています。
– 小川浩 ( @ogawakazuhiro )