テスラモーターズを知っているでしょうか。
僕は「最近気になるベンチャーは?」という質問に対して、ここ何年かは決まってこのテスラの名前を挙げることにしています。
テスラモーターズは、環境保護に配慮したエコカーである、EV(電気自動車)専業のメーカーです。デトロイトではなくシリコンバレーに本拠を持っていることで分かるように、自動車業界からのスピンオフではなく、むしろITベンチャーの香りを漂わせる異色な企業です。
僕が彼らに注目する理由は二つあります。それは技術面とマーケティング面の両面です。
■ Google的な発想で動力を確保
まず技術面を話しましょう。
EVでは動力にエンジンではなくモーターを使い、リチウムイオンバッテリーを電源として使っています。ちなみにプリウスなどのハイブリッドカーは、HEV(Hybrid Electric Vehicle)と呼び、ガソリンエンジンとモーターを用途に分けて併用する仕組みです。(HEVは、正しくは内燃機関と電動機の組み合わせ)
ちょっと脱線すると、燃料電池(Fuel Cell)を使うFCV(Fuel Cell Vehicle)というものもありますが、最近では、将来のエコカーといえば、EVを指すのが普通です。
通常のEVは、大容量・高品質のバッテリーを採用し、一台のクルマに乗せるバッテリーの数をなるべく少なくする発想で設計されています。数が少なければ品質確保しやすいし、生産効率も良くなります。
ところがテスラのEVは、小さいバッテリーを大量に組み合わせるという、常識とは真逆のパッケージを採用しています。縦に99個(=直列)x 横に69行(=並列)=6831本という形式です。
大きなバッテリーを採用すれば、それ自体の品質管理に時間を割くことができます。バッテリーは性能を向上させる=大容量にすればするほど、破裂/爆発するリスクが出てくるので、これを抑えることに大きな開発コストと時間をかけることになります。日本では自動車メーカーと電機メーカーあるいは電池メーカーが共同で開発するスタイルが主流であり、どうしも高性能バッテリーの開発に目がいくことになります。
しかし、小さなバッテリーをたくさん組み合わせれば、一個一個の電気の貯蓄量が少ないので爆発するリスクは軽微になります。仮に一つのバッテリーに異常がきたしたとしても、その熱暴走が他のバッテリーに影響を及ぼさないように、連鎖反応を制御することができれば、損傷は69分の1に過ぎず、全体の性能にはあまり影響が出ないことになります。このバッテリーの構造は、ノートパソコンの熱制御の技術から生まれたとテスラは言っています。(ちなみにこのバッテリーは日本製だそうです)
また、そのバッテリーの交換のコストも全体の69分の1です。大容量バッテリーが破損すれば、爆発という危険と、代替バッテリーに交換するコストも大きくなります。
つまり、一般の大企業のEVは、故障はあってはならないという発想ですが、テスラは故障しても軽微な損傷ですませる、という発想なのです。
実はこの発想はGoogleに非常に近い。
Googleも、小さくて安価なサーバーを連結させて巨大なネットワークを作っています。毎日数個?のサーバーが故障し、時として火を噴くと言いますが、すぐにそれを交換し、全体への影響を与えないようにしている。正しくテスラの考え方に近い、と言えます。
僕が注目するのはここです。
テスラはIT技術、ソフトウェアによるバッテリの熱暴走を抑えて性能を担保する、バッテリ制御技術をクルマに応用したベンチャーである、という事実にこそ僕は注目しています。
■ シリコンバレー的なビジネスモデル
もう一つ僕がテスラをリスペクトするのが彼らの卓越したマーケティング戦略です。
1) 実用車からではなく高性能スポーツカーから開発
通常のEVメーカーであれば、まずは実用車から開発をスタートしそうなものですが、彼らは英国スポーツカーのシャシーをコピーして、非常に前衛的なスタイリングを持つスポーツカー「テスラ・ロードスター」をリリースし、1000万円以上の高額のプライシングを行いました。それをGoogleの創業者らやジョージ・クルーニーなどのセレブに販売し、世間の注目を集める戦略を採用したのです。
このロードスターは一回の充電で300km走行できるエコぶり(燃費ではプリウスの倍!)と、時速200kmを超える高性能を誇ります。スーパーカーぶりとクールなスタイリングを持つエコカー、という独自のコンセプトを選択したわけです。プリウスやインサイトの凡庸なスタイリング(それがまた個性とは言えますが)とは、真逆です。
日本ではエコとは単に節約、ですが、米国では確かにLOHAS的発想で、環境に配慮した生活をすることはクールなことと考えられています。だからエコカーをかっこ良く作るというのは理にかなっているのです。
テスラはロードスターの次は高性能セダンを発売し、やがては大衆用EVまで作っていくと発表しています。
2) テクノロジーそのものをマネタイズ
しかし、日本の自動車メーカーを始め、多くの自動車業界の識者はあまりテスラに注目していないような感があります。自動車業界はある意味排他的です。多大な投資を必要とする自動車業界に、ベンチャーの入る余地はない、と思っているのでしょうか?
または、EV自体の市場が巨大化したときには、既存の自動車メーカー自体が大資本を投じて一気に市場を占有してしまうだろう、結局ベンチャーは駆逐されるだろう、と思っているのかもしれません。
しかし、GoogleがMicrosoftをここまで脅かす存在になれると 始めから予測できた人がどれだけいたでしょう?Appleが携帯電話市場でここまで巨大な勢力になれると信じていた人はどれだけいるでしょう?(Apple信者以外は。僕は信じてました(^^))
また、EV自体は新しい市場です。内燃機関を使った自動車とは部品点数も違うし、構造的に異なるところが多い。というか、EVのキモは電源であり、その他の作りはこれまでの自動車と比べると非常に簡単なのです。だから必ずしも既存の自動車メーカーが優位かというとそうでもないとも思えます。
ただ、テスラ自身の狙いは実は別にある、と僕は思っています。
完成品としてのEVは少数生産でよく、ランボルギーニやフェラーリなどのように、かっこ良くて速いクルマを欲しがる層にだけ売れればいいと、彼らは考えているのではないか?
じゃあどこで儲けるの?というと、それは肝心のバッテリー制御技術です。
ポルシェも実は完成品の売上もさることながら、他社への卓越した技術供与の売上が大きいと言います。
同じように、小電力バッテリーの並列パックと、その制御技術を売っていくことが彼らの本当の狙いでしょう。
事実、既に彼らはダイムラーに対してこの技術の販売に成功しました。
ダイムラーはメルセデス・ベンツBクラスのEV版と同時に、小型のシティコミュータであるスマートを改造して、スマートedというEVのテストを開始していますが、このスマートedにテスラの技術を採用することが決まっています。
繰り返しますが、彼らは完成車メーカーとして大成功を狙っているわけではないと思います。
ファンに支えられて、いつかは買いたいという理想的なスーパーEVをリリースするとともに、そこで実証された技術をマネタイズする。ある意味シリコンバレー的なビジネスモデルではないでしょうか。
僕もモディファイというネットベンチャーを経営する身ですが、このテスラのモデルは非常に参考になります。
無料あるいは低価格のサービスを提供して、耳目を集め、その裏側にあるコアテクノロジーを欲しい企業に売る。
つまり、B2C的なサービスを使って広告事業を狙うのではなく、B2Cサービスを使って自社を広く知っていただき、実際にはB2B企業であることを目指す。それが今後のネットベンチャーの有効な戦略の一つである、と考えています。
そのためには、テスラ同様、時流に乗ったサービス、あるいは本当に人に役立つサービスを作っていく、そして技術的に見所のある、エッジの効いたサービスを作る必要があるでしょう。
テクノロジーベンチャーとして成長を目指すには、このスタイルを磨いていく、学んでいくべきだと考えます。
コメント
テスラは侮れないですね。
私も最初はロータスエリーゼの車体に日本製のバッテリーセルを詰め込んだだけじゃないかと思ったのですが、技術の肝は多量のバッテリーを制御する技術だったんですね。
ステラにとってEV自体は単なるプロモーショングッズであり将来もそれで儲けようとは考えていないと思います。
日本だとどうしても大企業が全てを抱え込んで垂直統合したがるんですよね。その方が品質的には絶対優位だと思っているし、消費者もそれをありがたがる。
でもEVはパソコン化すると思います。と言う事は生き残るのは要素技術でリードするインテルかクラウド技術のグーグルか企画・流通のデルに相当する企業でしょう。トヨタやホンダはIBMの運命を辿るのか?