アメリカは日本経済の復活を知っている

池田 信夫

アメリカは日本経済の復活を知っている本書を買ったのは、安倍内閣で参与になるといわれる浜田宏一氏が過激なリフレを安倍氏に推奨する真意を知りたかったからだが、読んで唖然とした。学問的な内容がほとんどなく、2年前の本と同じような思い出話が脈絡なく続くからだ。特に30ページ以上にわたって日銀の白川総裁を「出来の悪い教え子」と個人攻撃するのは、とても読むに耐えない(画像にリンクは張ってない)。

タイトルからは日本経済を飛躍的に成長させる秘策があるのかと思うが、中身は日本のGDPが潜在GDPを下回っているという話と円高だという話だけだ。それを是正すればいいことは自明だが、ゼロ金利なので通常の金融政策はきかない。そこで著者は、長期国債や外債を大量に買うことを日銀に求める。これは深尾光洋氏も批判したように、日銀が世界の中央銀行に先駆けて行なって効果がなかった政策だが、著者はその批判にも答えないで「緩和が足りないからだ」という。


「60人以上の経済学者にインタビューして、意見がすべて自分と同じだった」というが、それは円高が日本経済に悪影響を及ぼしているという事実認識だけで、著者のいうような無制限のインフレ政策に賛成している経済学者はいない。日本で著者がインタビューしたのはリフレ派だけで「主流の金融学者は賛成してくれない」と認めるが、それは日銀に買収されて「御用学者」になったからだという。反原発派も顔負けの陰謀史観だが、自分の考えが古いからだとは思わないのだろうか。

日銀がリスク資産を無制限に買うことは、財政ファイナンスとみなされて財政破綻を招くおそれがあるが、著者は「政府が破産しても国民は絶対に破産しない」という。その理由は「日本の対外純資産は世界最大」だからだというが、意味不明だ。国債はすべて円建てなのだから、いくら対外資産があろうと、政府がデフォルトしたら200兆円以上の国債を保有している邦銀は破綻する。

政府が破綻しかけたら「国債を政府が買い上げて円安にし、そのことで財政危機を解消する」というのも支離滅裂だ。これはハイパーインフレにするということに他ならない。財政破綻のリスクについては「今は金利が低いから大丈夫」という根拠しか示していないが、金利が上がり始めたらどうするのか。

日銀が結果を出していないことは批判されてもしょうがないが、「日銀は保身のために貧しい庶民を犠牲にしている」という類の感情論が綿々と続くのは見苦しい。全体として繰り返しが異様に多く、著者の精神状態が普通でないことをうかがわせる。かつて彼に学んだ者として、これ以上晩節を汚さないよう自重を望みたい。