2012年も終わりではないか。年末と言えば、レコード大賞に紅白歌合戦だ。音楽不況なる言葉があるにも関わらず、今年もこの2つの番組が放送される(一つは既に終了した)。そんな中、昨日のレコード大賞では「これが日本の音楽業界の現状です」という服部克久氏の発言が物議をかもした。
この発言について、年末に徒然なるままに考えてみることにする。これは、偽善だ。商業音楽に関わっている者が今さらそんなことを言わないで欲しい。
ここ数年、年末になると盛り上がるのは「ランキングはAKB48と嵐だらけで、どうなのか」という問題である。これを根拠にして「日本の音楽シーンは腐っている」という議論がネット民を中心に起こる。
ただ、ちょっと待って欲しい。
そもそも、商業としての音楽なので売れてナンボの話である。だいたい、ヒットチャート上位が売れ筋以外だった試しは、ほぼない。昔で言えば「ザ・ベストテン」にランクインしても、「テレビでは自分を表現しきれない」などの理由で出演しなかった「アーチスト」と呼ばれる人も結局は商業音楽をやっているわけだ。売れることは偉いことである。この事実を虚心に直視しなければならない。
なかでもAKB48は投票券、握手券などをはじめとするおまけ商法、微妙に違うバージョン違いはどうだという話になるが、これもまたCDがあまり売れなくなった00年代に入ってから、やれDVDだ、ブックレットだと、おまけが「出血大サービス」とも言えるくらいついてくるわけで、別にAKB48だけの話ではない。売る努力をしているという点ではむしろ評価してもいいだろう。もちろん、「そこまでやるか」という話になるのだが。
人は誰かを推すために生きている。AKB48は推さざるを得ない存在なのである。
嵐にしても、ジャニーズ50周年の最終鬼畜兵器だと私は解釈している。高度なプロデュース力と、本人たちの努力の究極進化系だと思っている。そういえば、私が学生時代、商学部の講義でPPM(プロダクトポートフォリオマネジメント)について説明する際の事例が、ジャニーズ事務所だった。市場成長率と、相対的マーケットシェアが絶妙なバランスをとっており、金のなる木、花形製品、問題児、負け犬の分布が絶妙なのである。ビジネス誌では2050年がどんな世界になっているかの特集が組まれていたが、明らかに言えるのは、2050年に日本で、いやアジアで売れている男性タレントはジャニーズ事務所の所属だろう。
というわけで、AKB48と嵐という究極的に完成されたビジネスモデルは直視するべきなのだ。
そして、もう1つ。
AKB48と嵐ばかりという話になるが、この2つのアーチストが「シングル」で「圧倒的に売れている」という状況なのであって、音楽シーンは実に多様化している。
たしかに、シングル・チャートはAKB48(と、その姉妹グループ)と嵐だらけである。
だが、アルバム・チャートをみるとそうでもない。もちろん、大御所中心ではあるし、ユーミンと山下達郎、ミスチルのベスト版という禁じ手に近い最強鬼畜兵器もあるのだが。
ジャンルに関しても実に多様化していると言える。これは年間のチャートであるが、週間のチャートにおいてはより多様化している。例えば、私は幼い頃からメタルが好きだったが故に、肩身の狭い思いをして生きてきたのだが、日本のメタルバンドGALNERYUSがオリコンのアルバム・チャートでトップ10入りするなどの快挙を成し遂げている。
もちろん、トータルではAKB48や嵐ほど売れていなくて悔しいのだが、「圧倒的に売れている」アーチストと、そこまでではないが売れているアーチストの分化が起こっているわけである。
これはそれぞれのジャンルにおいてもそうだ。音楽雑誌の表紙を1年分、見てみると良い。ジャンル別の雑誌ですら、表紙を飾るのはそのジャンルで圧倒的に売れているアーチストにしがみついている。結果として古参バンドになることが多いのだけど。ちなみに、私はメタル雑誌BURRN!を愛読しているが、この1年間で表紙を飾ったアーチストの8割は20年以上のキャリアを誇るバンドたちだった。これもまた現実だ。
そもそも、低成長の時代である。音楽の楽しみ方も変わっている。ライブとソーシャルメディアでミュージシャンと触れ合う楽しみ方になってきている。ミュージシャンたちも最初からバカ売れしようと思っているわけではない。そこに希望を持っているわけではない。これもまた問題なのだけど。
というわけで、AKB48と嵐を今さら批判するのは偽善なのである。そして、音楽関係者なら、それを超えるアーチストを生み出してみろ、と。
もちろん、ロックが大好きな私としては彼らを打ち倒すようなバンドに出てきて欲しいと思っているのだけど。私自身、デスメタルバンドでボーカルをしている。まだ、ライブもレコーディングもままならない状態だが、いつかは紅白だと自分の中の中2が叫んでいる。
さて、今日は紅白歌合戦だ。朝まで生テレビ同様、この番組がいつまで続くのか激しく注目しているし、男女で争っている場合じゃなく、仲良くしろと言いたくなるわけだが。今年も勝負をかけた男女の骨肉の闘いが始まる。AKB48と嵐だけと揶揄される日本の音楽シーンだが、このラインナップをみて本気を感じた。この2つのグループ以外にも役者が揃っているではないか。
個人的には、もはや「クイーン・クイーン」に改名した方がいいくらい熟女化したプリンセス・プリンセスの狂い咲きと、とりをつとめる国民的グループ、実力派のいきものがかりに期待している。水野良樹は時代を代表するソングライターである。そもそも、いきものがかりは編成が昔のドリカムと一緒で、男性の方が多いのに紅組のトリだ。ただ、そんなことはどうでもいい。このグループが日本の音楽シーンの新しい扉を開くのだと信じている。
最後に、音楽は音を楽しむと書く。音で楽しむともいえる。AKB48と嵐だけと揶揄されるが、世界はロックで動いている。みんなが聴くべきグループはたくさんあるのだ。我々ファンも楽しむことをサボってはいけない。来年の音楽シーンの発展を祈ることにしよう。
よいお年を!