NYタイムズへの公開書簡

池田 信夫

拝啓 編集者様

1月2日の社説「日本の歴史を否定する新たな試み」についてコメントがあります。東京支局のタブチヒロコ記者のすすめでこれを「編集者への手紙」として出しますが、ウェブサイトでも公開するので、掲載しなくても結構です。


私は「慰安婦」を最初に取材したジャーナリストの一人です。1991年8月にNHKの番組で最初に慰安婦として名乗り出た金学順にインタビューしたとき、彼女は親にキーセンに売られ、そこから中国の慰安所に行ったと証言しました。

しかし1992年1月に朝日新聞が、慰安婦についての軍の文書を発見したという記事を出しました。それは慰安婦の誘拐を禁止する文書だったのですが、朝日はそれを軍による誘拐の証拠と誤認したのです。そして金は「軍に誘拐された」と証言を変えました。

この「性奴隷」の話が、NYTなど海外メディアの誤解の始まりでした。多くの人が間違いを指摘したため、朝日新聞は軍による強制連行の証拠がないことをしぶしぶ認めましたが、民間業者の広義の強制が問題だと話をすり替えました。いまだに軍の強制連行を非難しているのは海外メディアだけです。

戦前には娼婦の人身売買が行なわれ、日本軍が慰安所を管理していたことは明らかですが、それは世界のどこでも行なわれていたことです。インドネシアではオヘルネの証言した事件(スマラン事件)が記録されていますが、彼女を強姦した兵士は処罰されました。日本軍は強制的な性行為を禁じていたからです。

これは過去の「漂白」ではなく歴史的事実の問題です。実は、史実については歴史家に意見の違いはほとんどありません。私的な人身売買はあったが、軍の命令はなかったのです。安倍首相の「恥ずべき衝動」を攻撃する前に、偏見を捨てて歴史についての新しい論文を読むことをおすすめします。