中国の深い悩み

田村 耕太郎

中国が苦しんでいる。もちろん経済的にではない。経済は今後二年間は8%成長が見込めるところまで力強さが戻っている。第二次オバマ政権を選択した世界最大の経済国家アメリカに続いて、世界ナンバー2の経済大国中国でも政権交代による習近平、李克強体制がスタート。年末・年始に尖閣諸島付近で挑発行為を繰り返し、日本から見れば、脅威としての中国は巨大化する一方だが、実は中国は内側の悩みが深い。

政権中枢部の隠し財産などが話題に上り、国民の政治への信頼性も揺らいでいる。しかし、一番深刻なのは13億人からなる巨大国家を統治する術だ。古代から帝国であった中国は、多様な民族を治めるため、儒教等、統治のための思想を作り上げてきた。今は国家を統治するために共産主義を思想としてきた。しかし、もはや弱肉強食の原理的資本主義となった今では、共産主義を信じているものは皆無に等しい。お金が全てという世情も蔓延し、中華という文化や歴史が好きでも、共産党政府が好きだという人はインサイダー以外であったことがない。お金のためなら何でもやる、経済的に成功したら国を離れる、そういう人も続出している。

まだまだ貧しい内陸部は別だが、先進国並みに豊かになった都市部では、人々は経済的価値以外の価値を求め始めており、もはや経済成長やお金では国民をつなぎとめておくことができなくなっている。そもそも共産党が中国で広まった背景には、初期の共産党が儒教の器を使って広まったことがある。儒教の普及団体を共産党が乗っ取って、共産党普及の団体にしたのだ。だからあれだけ急速に戦後共産党が中国全土で浸透した。

今度は共産党に変わる思想が必要だ。共産党中央部は主に儒教をベースにその思想(ネオ儒教?)を練っているという。中国共産党の若手幹部候補からこの試みについて直接聞いた。私の知人の哲学者のところにも中国政府から相談が来ているという。

もちろん、これは中国だけの問題ではない。減少してるとはいえ、年間換算なら今のシリアの内戦戦死者数と同等の自殺者(3万人)を作り出している我が国も、然りである。
グローバル化が進み、バイオ、ナノ、自然エネルギー、ITというテクノロジーが生活
を変え、人類初の超高齢化時代を迎える。人々は健康で長命になり、様々なテクノロジーが生活を便利にしてくれる反面、年齢、国籍、文化、所得および地域間の格差等、多様性が国内で増していく。この点、多様性に対しておおらかかどうか議論が分かれるところだが、国内に日本よりも多様性を持ち、かつて帝国として多様性ある社会を治めてきた中国にグローバル化対応には少し分があるのかもしれない。

こういう時代に、人々は何を信じて生きていけばいいのか?何のために人生があり、何を幸福とすべきか?中国の課題は日本の課題でもある。今までのように、空気を読み合い、内輪で結束していくだけでは、国や地域や組織の発展を図っていくのは難しいし、もはや結束を図るだけの力や魅力が国や企業や地域の中にあるとはいえない。

逆に日本が来るべきグローバル・超高齢化時代に人々を安心させ、自由でありながら結束させ、安定して発展していく社会を実現できる思想を発明すれば、それは中国にも世界にも貢献できる。中国が日本の哲学者等に支援を求め始めているのは日本社会の安定性にあこがれがあるのではないか。ただ、日本も安定しているように見えて毎年シリアの内戦死者数と同じくらいに人が社会に殺されている(自殺している)とすれば、安定した社会といえるかどうかわからないが。

多分それは政治や政府の仕事ではないだろう。色んな意図を持つ政治や政府には、そういう思想を発明して広めたい動機はあるが、そのための準備も人材もいないし、そういう統治者の都合のいい意図を持った思想は、史上最も高いレベルで情報武装されている市民には広がらない気がする。それは民間が純粋な高い志に基づいて作っていく時代ではなかろうか?

この作業は簡単ではない。東西の過去の様々な思想を読み込み、科学や技術に対する正しい知識も組み込み、これからの時代背景をできるだけ正確に予想し、仮説を立てて検証しながら、初めて可能になるのではないか。大変な作業だが、これはやる価値があると思う。今年から各界有志で集って学びながら、練り上げていくことに挑戦したい。ここでも途中経過報告させて頂くので、もんでやっていただきたい。