中国にひれ伏し始めた韓国

田村 耕太郎

そもそもが2000年の冊封国家

ソウル高裁が年明けの1月3日、靖国神社放火事件の劉強容疑者(38)を政治犯とみなし、日本への引き渡しを不許可とする判決を下した。これには驚いた。これは韓国政府が事実上、日韓関係より中韓関係を優先するとのメッセージを発したのだと思う。そしてこれから中国は韓国をも使って日本に揺さぶりをかけてくるだろう。


韓国政府内では当初、日韓犯罪人引き渡し条約の対象犯罪である以上、日本側に引き渡すべきだとの意見が主流であるといわれた。流れが変わったのが、昨年7月の中国の孟建柱モンジエンジュー公安相(当時)の訪韓だ。孟氏は劉容疑者に対して政治犯としての処遇を求め、自国への強制送還を公然と要求していた。

この中国の対応はまさに韓国を冊封国として扱っているかのようだ。韓国と中国の歴史をわれわれは学ばないとこれからの東アジアは読めない。朝鮮は前漢初期に衛氏朝鮮が冊封されて以来、紀元前3世紀頃から、1895年に日清戦争で日本が清を破り、下関条約によって朝鮮を独立国と認めさせるまで、2000年以上ほぼ一貫して中国の冊封国であったのだ。

高麗では国王が亡くなると、中国から冊封使が来て承認が得られるまで新たな国王となることができなかった。琉球などの冊封国では国王が亡くなれば新たな国王がすぐに継ぎ、中国からの「事後承認」を得ればいい関係であった。しかし朝鮮だけは「事前承認」を得る形を取っており、「中国の許し」を重視していたといわれる。

経済的にも現代の韓国経済は、中国の冊封体制に入っていくかのようだ。韓国では、中国経済の台頭までは、対米貿易依存度が高かった。しかし、中国経済の成長に伴い2000年代に入り、中国が最大の貿易相手国かつ最大の直接投資相手国となった。韓国経済の中国依存体制は急速に深まった。中国の経済発展の持続と、良好な中韓関係は、韓国経済にとって最重要課題である。

韓国と中国の国交正常化の歴史は遅く、日中国交正常化に遅れること20年、つまり1992年のことである。国交を正常化した1992年の中韓の貿易総額は64億ドルに過ぎなかった。これが2008年には1,683億ドルとなり、20年未満の期間で規模が30倍近くに増加しているのだ。

韓国は今経済が全て。経済成長が何より国家の安定のために欲しいのだ。昨年暮れの大統領選挙も「高齢者と若者の戦い」と揶揄されたほど、韓国の社会保障制度は日本に比して貧弱だ。国民皆年金は日本に遅れること40年近く、1999年にようやく始まったばかり。積み立て不足で今の高齢者への支給額は月額二万程度とすずめの涙だ。定年が50台で来る韓国の老後はみじめである。人口増加期である高度成長期である間に社会保障制度を構築できた日本と違い、韓国は高度成長とはいえず、人口減少期に入っている。経済が最優先となればイコール中国が最優先である

輸出だけ見ても、中国は韓国の最大の輸出相手国。韓国の輸出全体の30%が中国向けだ。アメリカ向けが10%、日本向けは7%。日米合わせても中国の半分ほどしかない。対GDP比率で見ればもっと興味深い。韓国のGDPに対する韓国の対中輸出の比率は、日本の同じ指標と比べたら4倍。わかりやすく言えば、韓国から見た中国は、日本から見た中国より4倍も大きく見えているのだ。中韓関係の方が日韓関係より4倍大事に見えるともいえるのではないか?

日本の陸軍士官学校を3位で卒業した父、故パク・チョンヒ大統領の娘ということで親日派と期待されるパク・クネ次期韓国大統領。しかし彼女は父親と違い、日本語が話せない。一方、彼女は、英語、中国語、フランス語、スペイン語に堪能。中国語に堪能だけに中国人脈も豊富だという。安全保障上の懸念である北朝鮮を抑えるためにも中国は重要。韓国にとって経済から安全保障まで中国が最重要国家であり、2000年間にわたって中国の冊封国家であった歴史もある。

中韓が日韓より大事であることは明白になったが、やがて中韓が米韓よりも優先されることが明白になる機会がやってくるかもしれない。韓国は、中国と米国の間で悩むだろうが、アジア重視であるものの影響力を失うであろうアメリカより、やはり地続きで常に安全保障や経済を使ってプレッシャーをかけてくる中国になびく可能性が高いとみる。中韓米にさらに翻弄されるのは間違いないようだ。安倍政権には思想や夢想ではなく、リアリズムに徹してこれらの国々に対応されることを期待したい。