カタールに本社を置くアラブ系の放送局のアルジャジーラが、ゴア元副大統領が設立したCurrent TV をつい最近5億ドルで買収した。
Current TV が買い手がつかない程の経営不振に陥っている報道は知っていたが、メデイアの外資による保有制限がある事から、まさか外資、しかもアラブ系の放送局に買い取られるとは夢にも思わなかった。
こんな事なら、NHKに買って欲しかった。
何故かと言えば、日本は国内と海外からのイメージの違いが大きすぎるからだ。このギャップの大きさの理由は、何と言っても日本の広報能力不足と外交音痴にある。
このイメージギャップのマイナスは、日本人から見れば不当としか思えない「慰安婦事件」の海外の厳しい反応でも判る。
何せ、水俣事件、ハンセン氏病問題、薬害事件など公式記録に残る日本の人権意識不足と理念のなさは酷すぎる。問題の根深さは、日本人がこれ等の問題を人権問題と捉えていない事にもある。
更に、原爆以上の死傷者を出した残酷極まりない「日本の焦土化作戦、飢餓作戦を立案実行」したルメイ将軍に、勲一等旭日大綬章を授与しながら、日系人の強制収用に政治生命をかけて反対したラルフ・カーコロラド州知事には、日系人やコロラド州からは多くの顕彰が行なわれたが、日本政府からは感謝状の一つも出さない態度は誰が見ても戴けない。(拙稿「 米国大統領の廣島訪問を断る不思議」参照)
それだけではない。
昨年末に亡くなり、国葬に順ずる異例の扱いを受けて葬られたダニエル・イノウエ上院議員が、生前のインタビューで、最も悔しかった経験として、時の中曽根首相との会談で「日系人が駐日米国大使に任命される日が一刻も早く来る事を夢見ている」と言うイノウエ氏の発言に対し「日本人は、日系移民の殆どが士族ではなく、貧しい階層出身だと言うことを覚えていますので、未だ早すぎます」と言われた事だと述べている。
この様な、日本の権力者や政府の卑屈さと理念のなさが、日本の国益を傷つけて来たことは間違いない。
過去の事実は消す事は出来ないが、偏向したイメージの転換は可能である。それには,日本の本当の姿をコンスタントに伝える事がベストで、その為にはTV報道ほど効果的な手段はない。
NHKには、魅力的な日本の他に、BBCに勝るとも劣らぬ世界的なドキュメント・アーカイブと言う武器がある。
その様な宝物を持ちながら、米国における独占販売権をNHKの偉い人の知人女性(米国人)に与えていた時代が長かった(現在は、その様な事はない事を願って止まないが)。
ビン・ラディンの肉声を放送した事と9・11以降の反回教運動の高まりもあり、アルジャジーラの米国進出は茨の道であったが、英語放送の国際化を目指し、現在では殆どの報道陣は諸外国の高名なジャーナリストを任命するなど、大半が非アラブ人で占められている。
その結果,今や Apple、Google、Ikea、Starbucksについで世界で5番目の有力ブランドに選ばれ、クリントン国務長官から「自局の意見に影響を受けた米国の放送より、アルジェジーラは事実を重視した報道だ」と賞賛されるまでになった。
欧米に於ける対アラブイメージ改善に果たしたアルジェジーラの役割の大きさは測り知れない物がある。
アルジェジーラが5億ドルもの大金を叩いてCurrent TV買収した理由は、Current TVの貧困なコンテンツにあるのではなく、現在の10倍の4千万の視聴者に届くケーブルTVやダイレクトTVとの契約が狙いであった事は明らかだ。
日本には反回教運動の様な強い偏見を持った国は少ない。その上、技術水準もアーカイブもアルジャジーラとは比較にならない程充実したNHKに足りない物は、国際化と配信契約である。
NHKは、海外諸国のこれはと思うTV番組配信会社の買収を積極的に行い、日本のありのままの姿を永続的に海外に伝えて欲しい。
これが実現すれば、日本のイメージと言うブランドパワーは飛躍的に向上し、日本の産業振興は勿論、留学生の導入や国際紛争の有利な解決にも役立つ事請け合いである。
2013年1月16日
北村 隆司