環境省の法的根拠なきCO2規制

池田 信夫

東電が予定している火力発電所の入札に、環境省が待ったをかけた。石原環境相は「(石炭火力は)CO2の削減には非常にネガティブな発電装置だ」と記者会見で懸念を表明したが、日本にはCO2の排出量を制限する法律はない。原発で法的根拠なき稼働停止が国民経済に多大な損害を与えたのに、こんどは環境省が恣意的に介入するのだろうか。


マスコミでは「石炭火力の入札」と報じているが、これは正確ではない。東電の入札条件は「260万kWのベース電源について、9.53円/kWhを上限とする価格で募集する」というもので、この条件に合うのは石炭火力か原子力しかない。LNGの価格は世界的には下がっているが、日本は供給源が限られているので10円/kWh以上になってしまうのだ。他方、CO2で見ると、LNGの約500g/kWhに対して、石炭は約1kg/kWhと2倍である。

このため環境省は電力各社に石炭火力をやめろという行政指導をしているようだ。これに対して茂木経産相は「燃料調達先の多角化のために当面は石炭火力発電が果たす役割は極めて重要だ」と述べて環境省と調整する意向だが、調整する必要なんかない。環境省の行政指導には何の法的根拠もないのだから、「役所が民間企業の設備投資に介入するな」と言えばいいのだ。もっとも経産省が普段から行政指導をやっているから、いえないだろうが。

こういうバカバカしい話が繰り返されるのは、日本にCO2の規制がないからだ。ニューズウィークにも書いたことだが、京都議定書は昨年で終了し、その次の規制の枠組は決まっていない。もう国際条約は不可能なので、各国が独自に規制するしかないのだ。排出権取引のような総量規制は統制経済になって非効率なので、炭素税が望ましいというのが多くの経済学者の意見である。

かりに5000円/tの炭素税をかけるとすると、LNGには2.5円/kWh、石炭には5円/kWhの税金がかかるので、コストが逆転する可能性もある。原子力は20g/kWhぐらいなので、炭素税はほぼゼロである。CO2を規制するなら、こういう法的な基準にもとづいてやるべきだ。総合的なエネルギー政策なしに、個別のプロジェクトに役所が介入するのは有害無益である。