デルは非上場では競争を勝ち抜けない --- 岡本 裕明

アゴラ

マイケル・デル氏は大学の時、寮の部屋で1000ドルの原資でPCs Limitedというパソコンの事業を始めました。その後、デルコンピューターは安価なパソコンを売り物に市場を席巻、世界でトップにまで躍り出ました。ところがその時の成功体験から会社の体質を変えることが出来ず今でもノートパソコンやデスクトップが主流のライン。結果として業績は悪化の一途をたどり直近の四半期決算は純利47%減となりました。

それが直接的な引き金になったのでしょうか、創業者などがMBOにより非上場化させることとなりました。その金額2兆2000億円ともいわれています。そこまでして非上場化させる意味は何なのでしょうか?


このMBOに際してはマイクロソフトも一枚加わるとされていますのでなるほど、オールドネームのチームが寄り合いということになるのでしょうか? そういえばHPもさえない業績ですがあの会社はどちらかというとトップ人事で過去、問題が重なりすぎました。

上場する理由のひとつとして市場からの資金調達という点があるのですが、そのメリットをきちんと使いこなしている上場企業はどれぐらいあるのでしょうか? 社債発行でもそれなりの格付けがないと厳しいわけですからIPOを別にすれば上場による資金調達のハードルは割と高いものになるような気がします。事実、日本企業も昨年あたり、非上場化が一時期増えましたが理由は上場維持のためのコストに対してそのメリットは少ない、という理由が目立った記憶があります。

非上場化のメリットは株主からやんや言われないことに尽きるかと思います。一方でストックオプションなどの魅力を従業員に提供しにくくなるというデメリットはあるでしょう。結果として優秀な人材を維持できないという見方もあります。これは日本企業には少ない悩みかと思いますが、アメリカではストックオプションはかなり普及してますから痛手となるはずです。

では株主から難癖をつけられないことで会社は本当に成長するのだろうかと考えた時、私はNOだと思っています。多分、一定水準の利益を確保できる安定飛行は可能かと思いますが、成長を考えた時、非上場化することで止まる可能性が高いと思います。それは経営に対する緊張感と時間に負けるということかと思います。特にIT関連のように日進月歩で技術が進化するような業種の場合、自社での開発が不可能であれば買収を通じた「時間を買う」手段に出る必要があるのです。本来であればデルは自社がスマホやタブレットに出遅れたならばそれらの企業と提携なり、買収なりで積極的なアプローチをかける必要がありました。非上場化で買収手段のオプションも現金が主流になりコスト高となります。

資本主義の問題が最近いろいろ言われていますが、それでも弱肉強食の流れは変わっていませんし、そうすることで企業の体質はより強くなり、成長するのであります。たとえばアメリカの上場企業の一株あたり利益(PER)に対する株価は現在13倍程度。5、6年前にダウが14000ドルをつけたときが16倍程度でしたから企業の利益体質はより筋肉質になっているといえるのです。

デルの市場からの離脱は私には負け組にしか映りません。そして私はデルのパソコンに振り返ることもないと思います。企業間競争はそれぐらい厳しいものだと思います。

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2013年2月6日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。