「武器輸出三原則」が絡むと、最新鋭のF35戦闘機の部品を輸出する事が、「国際紛争の助長」になると言う論議は全く理解できない。
そもそも「武器輸出三原則」なる方針は、海外では第3次中東戦争勃発、ヴェトナム反戦運動の激化、国内では「黒い霧解散」総選挙での自民党の停滞と民社の進出、東京での革新知事誕生や時限爆弾事件の続発など騒然たる1967年の内外政治情勢の中で、佐藤首相が「政局安定」の為に衆院予算委員会で表明した国内向け発言であって、当時から対共産圏輸出統制委員会(ココム)に縛られた日本は、国際的にはこの様な曖昧発言は意味のないものであった。
その後、冷戦構造の終結によりココムはその役割を終え、1996年に通称「ワッセナー・アレンジメント」が設立された。
特定の対象国・地域に的を絞ることなく、全ての国家・地域及びテロリスト等の非国家主体も対象として通常兵器及び関連汎用品・技術の輸出管理を定めた「ワッセナー・アレンジメント」は、国際法上の拘束力を持たない点では「武器輸出三原則」と同じでも、遥かに具体的な国際的な申し合わせである。
従い、日本がこのアレンジメントに参加した時に、「武器輸出三原則」は撤回するのが本来のあるべき姿であったが、それを怠った政府の怠慢は指弾されるべきであった。
日本国内の論議には、「三原則」の例外規定を拡大すると、イスラエルと対立関係にあるアラブ諸国の反感を買うと言う現実離れしたナイーブな発言があると報道されているが、中東諸国はそれほど馬鹿ではない。
現に、イスラエルの宿敵であるイランやイラクを始め、かなりの数の中東国家がイスラエル製の「Uzi式」機関銃を購入しいる現実を知らないのであろうか。
イスラエルの原発や核兵器の開発、空軍の創設が、フランスの援助で行なわれた事や、イスラエル空軍が爆破したイラクの原発もフランス製で、この空爆でフランス人の原発技師が死亡したのも事実なら、そのフランスが今では、多くの回教国と共同してマリで「イスラム原理主義者」と戦争状態に突入している現実は、外交が如何に「したたかさ」を必要としているかを物語っている。
F35戦闘機の部品が他国には製造できず、日本の部品がなければ戦闘機が飛べないならいざ知らず、実情はその真逆で、部品輸出は日本に技術習得と競争力増強の機会を与えてくれる絶好の機会で、米国が反対するなら兎も角、日本国内で反対運動をする人の「脳味噌」を覗いてみたい。
紛争当事者は命をかけて「闘って」いるのであり、必要なものは何処からでも調達する必死さがある。「紛争の助長回避」の「理念」を掲げて、国際的な提携も無しに、日本だけが武器の部品の供給を拒否しても意味はない。
だからこそ、世界平和を希求する日本は、ワッサーマンアグリーメントに参加したのである。
安倍政権は「日本産の部品が第3国に移転されることを厳しく管理する」という内容の官房長官談話を発表するというが、これも下らぬ事で、「ワッサーマンアレンジメントを遵守する」と言えばそれで済む事だ。
朝日新聞は「F35の部品輸出を例外にすることは、海外武器の輸出拡大につながる恐れがある」と主張したそうだが、これは、数十年前に「トヨタの軽トラックが紛争地の武器運搬に多く使われている事を憂慮する」と書いた伝統が今でも生きている事の証拠だろう。
激変する世界情勢に目をつむり、外では「冷戦体制」内では「55年体制」の価値観を維持し続ける朝日の記者は、多分入社時に「脳の冷凍保存」を求められるのであろう。
2013年2月6日
北村 隆司