日銀の総裁人事がこれほど盛り上がるのは前回2008年のときに続き再び、と言ったほうがよいのでしょうか? そのときは民主党が総裁候補であった武藤敏郎氏を拒否、約一ヶ月間の空白期間を経て副総裁候補であった白川方明氏を総裁に引き上げた経緯があります。
今回、白川総裁が任期満了より一カ月早い3月に辞任すると発表したことに際してマスコミは「圧力」があったのではないか、と勘ぐっていますが、仮にあったとしてもそれが主因ではありません。もともと、日銀人事は総裁、副総裁人事が同時に行われるものであるにもかかわらず、前回、白川総裁がひと月遅れで任命されたため、総裁と副総裁の任期に一ヶ月のズレが生じただけなのです。つまり、仮に2008年、総裁候補者が予定通り、就任していればもともと3月にその任期が終了することだけの話であり、白川総裁は副総裁の任期にあわせただけの話であります。
ではなぜあわせたか、といえば安倍内閣が鼻息荒く日銀改革に取り組んでいる手前、日銀の主要人事は一発で動いたほうが政府、日銀の連動性を含め、やりやすいということであります。ましてやわずか、一ヶ月の差ですから白川総裁は早期辞任というニュアンスではなく、「繰上げ任期満了」の意味合いということでしょう。
これからは次の日銀総裁が誰になるのか、その噂で持ちきりになることでしょう。安倍政権としては当然ながら政府の方針に賛同し、一緒に走ってくれる人を選出することになります。かなり候補は絞られていることと思いますし、財務省次官経験者も候補に入っているものと思います。
さて、日本と同じような状況にあるのがイギリス。7月にイギリスの中央銀行であるバンクオブイングランドの総裁がキング卿からカナダの中銀総裁、マーク・カナリー氏に代わります。人選という点では終わっておりますが、いかんせん、外国の中銀からの移籍となればプライドの塊のイギリス人はすんなりと受け入れないでしょう。事実、2月7日にはカナリー氏はイギリス議会のTreasury Select Committeeと称する委員会で3時間にわたり13名の議員から辛辣な質問を受けることになっています。イギリスも2%のインフレターゲットを掲げながらも、一方で経済は後退期に入り、今年一杯の回復は難しいという専門家の見通しも多いなかで、金利、為替を含む多岐にわたる政策方針についての議論がなされる予定です。
日本では選挙という手段の一発判断となりますが、この選挙でも日銀総裁は衆参両議院でそれぞれ承認を取らなくてはなりません。衆議院での票読みの関係でみんなの党、日本維新の会の動向次第では民主党の存在は忘れられるという状況の中、民主党はあくまでも「人物で選ぶ」という柔軟姿勢を見せております。つまり、よほどのことがない限り、自民党が推す最終候補者が総裁に選任される可能性は高いと考えてよいかと思います。
その際、日銀の政策があまりに政府に擦り寄った場合、いざというときの建て直しが出来ないというリスクを抱えることになりますので政府の政策に一定の理解を示すものの全面的なかばん持ち状態にならないようなそれこそしっかりした「人物」を選んでもらいたいところであります。
日本は昨今の円安に喜んでおりますが、今日あたりの動きを見ていると中国との関係悪化が円売りの材料となっています。つまり、白川総裁の早期辞任の円安という一時的なお祭りではなく、もっと懸念すべき材料としての円売りの動きとなっていることに留意すべきです。ファンダメンタルな問題は為替のコントロールが利かなくなり、内需に依存する日本経済には極めて大きなダメージとなります。今回、電力会社の第3四半期決算が発表になりましたがあまりのひどさにもかかわらず、輸出企業の決算上方修正のニュースにかき消されています。
何事にもバランスというものが必要です。安倍政権ではいろいろ方針は打ち立てていますが、実行するのはこれから、ましてやその効果ももっと先の話です。目先の話につられるのではなく、もっとじっくり腰をすえ、熟考の人事をお願いしたいものです。
今日はこのぐらいにしておきましょう。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2013年2月7日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。