打つ手がないのか、中国からとんでくるPM2.5

大西 宏

関東は地形の影響で比較的被害が少ないからでしょうか、中国からやってくるPM2.5(粒径2.5μm以下の浮遊粒子状物質)を問題にするのがずいぶん遅かったように感じます。
西日本では、すでに昨年から中国から硫酸塩エアロゾルなどの大気汚染物質が日本に流れこみ花粉症に似た症状を引き起こす健康被害がでており、昨年6月にブログでも取り上げました。やはり日本でも深刻な問題になってきました。とくに偏西風の影響で飛来が増える春先には要注意です。
中国の大気汚染は日本にとっても深刻な問題じゃないか – : 大西 宏のマーケティング・エッセンス


米国大使館では、中国での環境汚染を測定し、その数値をツイッターで日々公表していますし、またNASAが衛星から撮った中国本土の汚染状況の写真を公開しています。
BeijingAir (米国大使館のツイッターによる汚染情報) :
NASAが衛星から撮った今年1月14日の写真を見ると、ほんとうに酷いスモッグが広がっていることが見てわかります。
Air Quality Suffering in China : Image of the Day :

そもそも中国の大気汚染に関して、中国政府からたんなる濃い霧だ、中傷だとの抗議を受けながら、3年間にわたって一時間おきに測定し警鐘を鳴らしてきた米国の大使館情報が、この問題を表面化させてきたのです。直接被害を受けるはずの日本の政府の対応とは対照的です。
憂鬱な「空気」 | ふるまい よしこ | コラム&ブログ | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト :
中国の大気汚染―「濃い霧」と主張する政府に勝った米国大使館/ WSJ日本版 – jp.WSJ.com –

マスコミを通じての報道はやっと増えてきたものの、肝心の日本での情報公開に関しては政府の取り組みがいまひとつ感じられません。緊急経済対策が「緊急」なるが故に、また自民党と霞ヶ関の拙速的な、なんら経済効果のない箱モノの大量にばらまきになろうとしています。国会でも審議が始まっていますが、同じ緊急対策なら、大気汚染状況の情報システムぐらい整備してはどうかと感じます。

とくに健康被害で問題になる硫酸塩エアロゾルの測定結果と予測については、九州大学/国立環境研究所が動画で公開していますが、環境省がもっとわかりやすい情報提供を行うべきでしょう。ちなみに硫酸塩エアロゾル(大気汚染物質)の予想分布については、九州大学/国立環境研究所のこちらのサイトの図をクリックすれば動画で確認できます。
硫酸塩エアロゾル(大気汚染物質)の予想分布:

やはり霞ヶ関や国会が、汚染状況がマシな東京にあって実感がないからでしょうか。国民の健康に関しては鈍感だからでしょうか。東京の猪瀬都知事が「北京市長へ東京にノウハウあると伝えた」とされていますが、国の動きの鈍さが気になります。

しかし世の中は皮肉なもので、日本は空気清浄機に関しては強く、日本でも空気清浄機が飛ぶように売れ、また中国では、空気清浄機市場が急拡大しただけでなく、2009年まで50%以上の市場シェアを誇った中国地場ブランド「亜都」が、2012年に約15%にまで落ち、パナソニック、シャープ、ダイキンの日本製品の売上が急増しています。やはり中国製品では信頼出来ないということなのでしょう。
中国、大気汚染深刻化で日本製空気清浄機販売が急伸、中国製は苦戦 (Business Journal) – Yahoo!ニュース :

液晶テレビが売れず不振にあえぐ家電業界にとっては明るい話題ですが、いつまでも空気清浄機に頼るだけでは根本的な問題は解決されません。

中国の環境対策については、中国の産業が、付加価値の低い重化学工業が多く、それが公害をばらまいているわけで、経費のかかる対策を打つことには消極的です。日中韓のあいだで1999年以来毎年日中韓三カ国環境大臣会合が開催されていますが、それこそ安倍総理のリーダーシップで、日本政府が働きかけて環境対策プロジェクトをたちあげればはどうかと思います。政治、とくに領土問題は対立が起こるものですが、健康問題は共通する課題です。

時間がないために、ほんとうに経済効果や将来に生きてくる財政出動ではなく、ただただ机上の数字だけで予算を組み、その予算の消化でしかない財政出動は常識で考えても、なんら将来に生きてこないばかりか、将来のツケにしかなってきません。それこそ日本の国民にとっても重要な健康被害につながる公害問題への国境を超えた対策を予算をつけて打ち出してはどうなのでしょう。