企業に取って、たっぷりお腹に溜まった内臓脂肪の様な存在である「バブル世代」のリストラはどうも待ったなしの状況である。
リストラ部屋は、国内のありとあらゆる大企業に設立され、毎日毎日定年まで勤める積りでいた従業員の、企業からの引き離しを行う事になる。誠に以て凄惨な光景である。
一方、中小企業の雇用も実に厳しい。来月末に中小企業雇用円滑法が終了するからである。自民党は、参議院選挙までは景気の悪化を避けたいに決まっている。従って、それまでは何とか繋ぎの対策を施すと思う。
しかしながら、それ以降は80万社ともいわれるこの法律の対象となった中小企業が自立を即される事になる。
結果、「不採算ビジネス」からの撤退。「薄利ビジネス」の縮小という方向に向かうはずである。リストラは避けられない。
金融緩和の結果、資金が「設備投資」に向かえば雇用が増えるが、日本国内とアジア新興産業国の人件費格差を考えればあり得ない話だ。製造業の海外移転は今後も加速する。
こういう状況を眼にすると、これから世に出る若者に取って大事な事は、「正社員」という「身分」を手に入れるだけではダメで、「トカゲの尻尾切り」とは無縁の社員になる必要があると痛感する。
しかしながら、これは「言うは易し、行うは難し」の典型で、どうやれば良いかの「解」を見出すのが中々難しいテーマである。
今日は連休の最終日で、ゆったりと過ごされている方も多いと思う。解釈や考察を交えず、このご時世にサラリーマン生活を満喫されているN氏の例を参照してみる。読者の方に、幾分かでも参考になれば良いと思う。
最近、著名外資系保険会社に統括本部長の役職で勤務されているN氏と会食したが、元気一杯なのに驚いてしまった。
ちなみに、N氏は45才の男性で高校からシリコンバレーで有名なアメリカ、サンノセに留学し、高校、次いで大学も卒業したと言う学歴である。
帰国後日本企業勤務は原則なく、現在統括本部長として勤務中の保険会社も含め何社かの外資系企業を渡り歩いている。
職務履歴を読ませて戴く限り「華麗」の一言に尽きる。
しかしながら、日本支社開設に伴い、請われ、良い条件で転職したにも拘わらず一年後本社の方針が変更となり、支社は閉鎖、失職と言う辛酸を舐めた事もあると聞いている。
N氏と話をして何時も感じるのは、日本企業に勤務する普通の会社員に比べ遥かに逞しいと言う事である。その背景を考えてみたが、「失業をちっとも恐れていない」と言う点に尽きる。
N氏に取っても失業は決して好ましい事態、状況ではないに決まっている。しかしながら、詰まる所、「そんな事あれこれ心配してもしょうがない」と腹を括っているという事だと思う。
どうしようも無い事をあれこれ悩むより、「失業しても転職出来る様に普段から準備しておく」と言う事かも知れない。
急な土砂降りに途方に暮れて、ずぶ濡れになりながら立ち尽くしているのが日本のサラリーマンであるとしたら、N氏の場合、予めその日の訪問先の近所にPC電源のあるタリーズがある事を調べておき、鞄から折りたたみ傘を出して濡れずにタリーズまで移動し、そこで雨がやむまで仕事と言う風情である。
具体的には、企業での勤務を通じてスキルを極めて高いレベルまで持ち上げる事に成功している。
軸足は、飽く迄勤め先であるが、もう一方の片足を器用に動かし、業界内で「顔」と「名前」を売る事に成功している。
「常在戦場」と心得、統括本部長の役職にあっても、「商品設計」を行うのに際しての先端技術を自らが渡米し長期出張の上、マスターし、国内への移植に成功している。管理職であると共に有能なプレイヤーでもある。
ちなみに、日本でも「プレイングマネージャー」という言葉は良く聞くが、管理職としてはもう一つで、プレイヤーとしては老いて賞味期限切れというケースが多い様に思う。
アメリカの大学を卒業しろとか、N氏の様に外資系企業を渡り歩けと奨める積りは毛頭ない。しかしながら、リストラ旋風が今後国内企業で吹き荒れる事になるので、参考にはすべきと思う。
山口 巌 ファーイーストコンサルティングファーム代表取締役