先日、ソウル大のキム・ナンド教授とKBSの企画で対談したのだが、その時にいただいたのが本書だ。人口が5千万人の韓国で170万部売れたというから、そのインパクトの凄さがよくわかる。
ただ、正直にいうとタイトルだけみて「昔はもっと大変だったんだから若いもんはもっと頑張れよ」系の本かと思ってついついほったらかしてしまっていた。ようやく手に取ったのは連休に入ってから。で、内容はというと……個人的には学生はもちろん、悩める若手ビジネスマンにも強くおススメしたい一冊である。
ダメな自己啓発本のパターンは、だいたい以下の2つだ。
・単純に「もっと頑張れよ」的な精神論
・スーパーマンの武勇伝(例:「結局、〇はキレイが勝ち」とか)
というか、世の中の99%の自伝、自己啓発本の類はだいたいどちらかだと考えている。
ところが氏はスーパーマンでも修行僧のようなメンタルでもなく、国家公務員試験に3回連続で落ちたり、進路を大きく変えたり、プライヴェートでもいろいろ悩みを抱えてきた。そして、それらと向き合う中から導いた経験則を率直に語っているので、スーパーマンでも哲人でもない等身大の処世訓となっている。これが幅広く受け入れられたポイントだろう。
ちなみに“上世代からの精神論”に対しては以下のように一蹴している。
今の若い人達は国民所得一万ドルの時代に生まれた世代だ。
仕事や人生への期待のレベルはこれまでの世代とは完全に違う。
(中略)だから、かれらに自分の経験を突きつけて、やたらに「条件を下げろ」と叱りとばすのは適当ではないと思う。
キャリアについても本質的なことを述べている。就職に有利な専攻に潜りこむために血眼になり、自らのスペックを上げるために資格やインターン、ボランティア履歴の獲得に躍起になる学生に対して、重要なのはそういった派手な履歴ではないと説く。
現代は往来と融合の時代だ。そのため、多様な知識を吸収し、時代のニーズにあった「自分だけのストーリー」を作っていくことが、学歴やスペックよりも重要になる。
派手なキーワードの羅列よりも、筋の通った一本の物語が人を引き付けるという点は、マーケティングも就職も変わらない。
さて、本書には“ダブルメジャー”や“スペック”といった言葉が頻繁に飛び交う。前者は2つの専攻で学位を取ること、後者は就職のために必要とされる資格、インターン、留学、ボランティア等の学業以外での活動を指す。読んでいるこっちがめまいがするほどの競争社会だ。
筆者は、韓国の若年層は日本の10年先を行っていると考えているので、遅かれ早かれ日本でも同様の競争社会が実現するだろう。一足先に、日本の課題を予想するという意味でもおススメの一冊だ。
編集部より:この記事は城繁幸氏のブログ「Joe’s Labo」2013年2月15日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった城氏に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方はJoe’s Laboをご覧ください。