「農水ムラ」は農業を自然死に追いやろうとしている

大西 宏

昨日の報道2001で、やっとカロリーベースの食料自給率は指標として適切でないという意見がでるようになってきました。カロリーベースの食料自給率というトリックがかえって日本の農業が抱える問題や日本の農業の発展にむけた議論や認識を妨げるものになってきたように感じます。


実際の国際的な指標である生産額で見れば、日本の食料自給率はほぼ66%から70%で推移してきました。しかも、グラフで示しましたが、食料自給率を押し下げている大きな原因が飼料用の穀物であることが一見してわかります。食料自給率問題とは飼料用穀物問題だとご理解ください。
食料自給率

しかし日本の農業がさまざまな課題を抱えていることは間違いありません。耕地面積の減少、農業就労人口の減少、さらに高齢化の急速な進行です。とくに、今後の農業の担い手の不足は深刻な問題となってきます。しかも、人数だけの問題だけではなく、これまで海外とも競争力のある高品質な農水産物をつくってきた人たちの高い技能や技術を誰が継承するのかです。

農業就業人口は毎年十数万人ずつ減り続けていて、平成20年で298万人となりましたが、65歳以上が6割強を占め、また半数は70歳以上です。20年後の農業を担う39歳以下は35万人にすぎません。
農業就労人口推移
45

もうひとつは、耕地面積の減少では、休耕地の増加だけでなく、農地を住宅地や商業施設、工場、また道路などへの転用が進んできており、農地がいわば引き裂かれてきているのです。地方をドライブすれば、この状況をまざまざと見ることができます。

しかし、こういった現象が起こってくる原因は農業が、生産する喜びはあっても、ビジネスとしては魅力がないことだと思います。専業でやっても、手間がかかるわりには稼ぎが少なく、補助金や所得補償など抜きにはやっていけないという現実もあるのでしょう。またそういった農業の保護政策をとってきたために、品質のいい作物はつくれても、ビジネスとしての進化が遅れてしまったのです。その悪循環が繰り返されてきました。

報道2001で、自民党の中谷副幹事長が農業の株式会社化を進めることは、撤退が自由であるために、農業を守ることには問題があるという発言がありましたが、どうも企業化を単純にとらえすぎているように感じます。もちろん農業そのものを企業化する、つまり大規模化することもひとつの企業化のあり方でしょうが、それだけが農業の企業化の目的ではありません。

農業の企業化で、大規模化よりも重要なのは、生産から、加工なり、また販売のプロセスを統合することの効果のほうがはるかに高いことをもっと直視すべきです。生産を流通業、食品メーカーなどが統合していくことも「儲からない農業」を「儲かる農業」に進化させていく効果的な方法です。また日本の農産物のブランド化も起こってきていますが、さらに海外にも広がるブランド化をはかっていくためにも、マーケティング力を強化するための企業化が求められてきます。

いずれにしても、TPP問題とは切り離しても、農業の構造改革に着手しなければ、ほんとうに日本の農業は高齢化とともに、自然死に追いやられてしまいます。しかし、農水省は自らの予算や仕事を失うこと、政治は地方の農業票を失うこと、また農協は流通支配力を失うことを恐れ、「農水ムラ」は構造改革には消極的どころか、いかに阻止するかに汲々としているように見えます。

日本の農業をどうするのかは、もっと開かれた議論をすることが必要であり、TPPは、農業のありかたを見直す絶好の機会としなければ、待っているのは農業の自然死でしかありません。