賃金を上げてデフレ脱却は可能か? --- 岡本 裕明

アゴラ

安倍首相も本当にいろいろ考える方です。フルマラソンを100メートル競走並みで走っているといわれていますが、これだけ次々と矢を放たれると政策間の調整も大変だろうと思います。

さて、2%のインフレを達成するためには金融政策だけでは無理だというのは安倍首相もご理解を示しつつあるところだろうと思います。そして、そこで次の行動が賃金を上げて欲しいと経済界のトップなどに要請をしたことであります。この動きはある意味、奇異な行動のように思われた感じもあります。なぜなら、本来であれば、そのような要請をするのは民主党に近いポリシーであって保守の自民党からその声は出にくいものであります。

首相の考えは賃金が上がれば消費が上向き、インフレになりやすいということかと思います。


ただ、これは短絡的過ぎるような気がします。

まず、家庭の消費行動はキャッシュがギリギリの家庭は消費に転換するとは思いますが、多少でも余裕があるところは貯める行動に出ると思います。つまり、使いません。理由は日本の歴年の貯蓄率からすると現在は低すぎるからであります。80年代は15%台だったものがいまや、2%を切るレベルまで下がり、貯金が出来ないと言われたアメリカですらリーマン・ショック以降は4~5%の貯蓄率になっているのです。

低い貯蓄率の理由は生活が苦しいからです。一方で近年よく言われる老後生活のための必要貯蓄額を聞くと今の30代の人たちは老後を迎えられないことになってしまうのです。当然「家計の大蔵省」である奥様方としては少しでも余れば貯金をしたい願望は強いはずです。よって給与が上がっても消費には向かいにくいと考えています。

では、首相の発想はだめだったのか、といえばそうは考えていません。ユニークなアプローチだと思いますが、企業のマインドが変わるように仕向けるという意味では正解だと思います。というのは企業は人件費は更に減らせると考えています。なぜなら材料費は下がらないですから、企業活動において一定の利益を確保するためにはあとは人件費をいじりたくなるのはどこの企業も同じなのであります。

結果としてこれが日本の労働者を苦しめ、デフレに繋がっていったわけですからその悪循環を止める、という意味では正しいアプローチだったと思います。

ただ、一番正しい手法は企業が安売り競争を止めることに尽きます。企業の利潤が低すぎるために人件費を削っていると考えるべきで、会社が儲かれば昇給や賞与などを通じて人件費を増やすことが物理的に可能になるわけです。今、人件費を増やす原資がないのですから、闇雲に給与を上げよ、といわれても企業がその利潤を削る以外直ちに出来る方法はないかもしれません。

もうひとつのやり方は最低賃金のハードルを上げるというやり方があります。ただし、以前にも書きましたが最低賃金の設定とは経済が発展途上にあり労働者の権利が明白でなく、不平等な使役になる可能性を防ぐためのものであり、日本のように先進国で成熟国となれば最低賃金での縛りはあまり、行うべきではない、というのが個人的意見であります。

デフレを止める簡単な方法は相続税をなくせばいいのです。消費は一気に回復します。なぜなら不動産市況が一気に上昇し、かつ高齢者の富裕層の消費が進むからであります。デフレを取り除くには小手先の努力よりはっと驚くようなやり方を取るべきです。相続税がカナダのようになくなる、或いはアメリカのように控除枠を数億円まで引き上げるなどすれば、金融緩和も財政出動も何もいらないはずです。直ぐに効果は出ます。本当はそういうところに気がついてもらいたかったのですがねぇ。

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2013年2月18日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。