著者は昨年元旦のNHK「日本のジレンマ」で同席させていただいた齋藤ウィリアム浩幸氏だ。アメリカ生まれ、アメリカ育ちの起業家で、自社をマイクロソフトに売却した後は日米で幾つもの企業経営に関わる生粋のアントレプレナーだ。
日本においては、国家戦略会議フロンティア部会など、いくつもの政府会議にも名を連ねている。シリコンバレー的視点から見た日本型組織の課題とはいかなるものだろうか。
著者のスタンスは単純明快。「停滞を続ける日本に足りないのは“チーム”だ」というものだ。
と聞くと、普通の人はピンと来ないかもしれない。「アメリカこそ個人主義の国で、集団主義の日本こそチーム力だろう」と思う人は多いだろうし、雇用問題に詳しい人であっても“チーム”というキーワードにはとんと縁がないという人が大半だろう。何を隠そう、筆者も最初はそうだった。
だが、読み進めるうち、著者の定義するチームとは「多種多様な人材が一つの目標を共有し、その達成のために各メンバーが協力し合うこと」だと理解してからは、すべての線がつながった。
企業や政府の会議に出席した著者が驚いたのは、そこにいる人間がすべて、同じようなスーツを着たオジサンばかりだという事実だ。原発事故調査委員会にセキュリティ担当として参加した際には、「前例がないから」の一点張りで、新規のPC購入を拒否する国会事務局と死闘を演じている。
そうだ。これが日本の「根本問題」だ。日本の組織は、いつからかはわからないがイノベーションが止まっているように見えた。何かを解決する、何かを生み出すための組織ではなく、与えられたこと、決められたことを間違いなく処理するための組織、何かを守るための組織になっている。
前例のないことや新しい試み、リスクのあることは極端に嫌われるし、失敗が許されない。稟議システムや何も決めない会議など、コミュニケーションの膨大なムダと仕事のルーティン化によって、組織の硬直化が進んでいる。
多様性なんてカケラもないし、動かないし、協力もしない。それは氏の考える“チーム”の対極と言っていい。氏の経験上、組織のイノベーションにもっとも必要なものはチームだという。氏が関わるベンチャー企業に対しても、最優先で要請するのはチーム作りだ。
新しいビジネスを切り開くアントレプレナーシップやイノベーションを生み出すものこそ、チームだ。さらに言えば、守りの姿勢ではなく、リスクを引き受け、コントロールするのもチームでなければ不可能だ。
これが「チーム不在の状況こそ、日本の最大の課題だ」と氏が考える理由である。筆者も全面的に同意する。
では対策はどうあるべきか。本書も述べるように、女性の登用など、すぐに可能な多様化を進めるべきだろう。そして〇×式の受験型教育偏重をただし「Why not?」と手を上げる習慣を教え込み、日本中にいる小さなウィリアムの芽をつまないようにすることも重要だ。
その上で雇用の立場から付け加えるなら、終身雇用制度からの完全な脱却が必要であることは言うまでもない。
勤続年数の長いオジサンだけが組織の頭に集まるのも、減点回避に全エネルギーを突っ込むのも、雇用制度というOSあってのことである。
前半は氏の起業歴が読みやすくまとめられていて、単純に起業ストーリーとしても面白い。万人におススメできる一冊だ。
編集部より:この記事は城繁幸氏のブログ「Joe’s Labo」2013年2月20日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった城氏に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方はJoe’s Laboをご覧ください。