「農地解放」なしの「農業強化」は「張りぼて」にすぎない!

北村 隆司

「首相『農業、成長産業に』」と言う日経トップ記事を読んで見ると、安倍首相の「農業強化策」とは、「アルバイト農家(兼業農家)」や「農業ニート(耕作放棄地主)」の保護強化政策である事が判った。

(1)農産物の輸出拡大、(2)農商工連携の強化(3)農地の有効活用が農業強化の3本柱だと言うのは理解するとしても、農業の生産向上のカギである農地集約の障害になっている「農地法廃止」や「優遇税制」の是正にも触れてない事は、片手落ちと言うより「両手落ち」の農業強化策と考えた方が良い。


然も、首相が農業強化策の論議の舞台に選んだのが「規制改革会議」ではなく「競争力会議」だと知ると、現行の規制を温存しながら官民ファンドなどを通じて更に公金を突っ込む意図は余りにも見え透いている。

失敗政策を強化すれば成功するとでも思っているとしたら大間違いで、更に悪くなるのが落ちである。
こんなお粗末な「農業強化策」で、「農業を若い人たちに魅力的な分野」(安倍総理)に出来るなら、日本の農業はとっくに隆盛を誇っていた筈だ。

これはどうみても、TPP問題で農業既得権者の反対を和らげる為に考えた、賄賂の一つと割り切った方が判り易い。

農地法や農地優遇税制で保護されている今の農家の「農地」も、元を質せば、GHQの強い指示でそれまで地主層の強い抵抗で実施できなかった農地解放政策が実行され、当時の小作地の8割に及ぶ約200万ヘクタールの農地を無償に近い形で小作農民に譲渡した事から始まっている。

不在地主の復活を恐れた当時の政府が、厳しい農地の転売制限と優遇税制を農民に与えた事が、農民を既得権者に替え、その結果として、就業人口の高齢化と土地の値上がりに期待する耕作放棄地の増加を生んだ。

大規模経営が世界的に主流になる中で、土地の所有者が大幅に増加した日本の小規模農業には中核的農家が育たず、半ば不在地主的な「兼業農家」が農業従事者の8割を占めるいびつな日本農業を生んだ。
一方、耕作を放棄しても優遇税制を活用すれば、都会に出た子供の為の「資産の温存」が出来ることに魅力を感じた高齢農家は、耕作を放棄した後も所有権を手放さない為に、耕地の減少には歯止めがかからず、今や農地全体の1割弱にあたる約40万ヘクタールが耕作放棄地となリ、その増加傾向は止まらない。

安倍内閣の「高齢で農業をやめる農家から都道府県が農地を一時的に借りる仕組みを設け、借り手が見つからない場合は、農地を集約した上で意欲のある農家に転貸しする。すでに耕作放棄地となった農家は、他の農家が使える様にするための手続きを簡素化する」と言う新規土地保有者を抑制する「農業強化策」は、今は死滅したソ連時代のソホーズ・コルホーズの「国から土地を借りて耕作する」と言う規定と瓜二つなのが「笑えぬ悲劇」である。

土地の値上がりを待って都会の真ん中で野菜を作ったり、「貸し農園」などの個人の趣味に使う事にも農地向け優遇税制が適用されるとしたら、国民の負担は増えるばかりである。

安倍首相は、最近の参院予算委員会で元農協専務理事の山田議員の質問に対し「日本の礎である農業を、自動車産業の犠牲にはしません」と答えているが、本来なら「これ以上国民負担を増やしてまで、農業の保護は出来ません」と答えるべきであった。

日本農業の強化策を真剣に考えるなら、規制改革会議で「農地法」や「減反政策」の廃止、「優遇税制の見直し」などの論議から始めるべきである。

2013年2月21日
北村 隆司