長谷川幸洋氏が、朝日新聞にのった齊藤誠氏のインタビューを批判している。
齊藤氏のインタビューは、大竹文雄氏や松井彰彦氏など多くの経済学者が「必読」として推奨したものだ。論旨は今のアベノミクス相場に水をさすものだが、相場をはやしたい長谷川氏はそれが気に入らないらしい。「私は斉藤教授のような言説をまったく信用しない。それはもう、さんざん聞き飽きた。株高になっても景気が上向いても『ダメダメ』と言って、けちツケに終始する」という。
長谷川氏は、齊藤氏の「エネルギー、食料の価格が上昇しているところに円安が進めば、ガソリンや灯油、野菜の値段はさらに上がる。給与明細の額が増えても必需品価格がもっと上がれば、暮らし向きは悪くなる」という話に噛みついて、「目先の景気刺激に金融緩和と拡張的財政政策が効くのは、それこそ経済学の常識である」という。そんな「経済学の常識」があるかどうかは、地方紙の記者より経済学者のほうがよく知っている。
今回政府の求めに応じて日本銀行が掲げた2%の物価上昇目標ですが、市場は中長期にも実現するとはまともに信じていません。
なぜなら理論的には、物価が2%上昇すると金利は3%ぐらいになる。賃金も3、4%ぐらい上がるでしょう。そうなれば企業のコストは膨らむし、国債価格が急落して、国家財政も、国債を大量に抱える銀行も困る。雇用に影響が出て労組も困る。そんな姿をだれも望んでいません。結局、経済界も自民党も、円安による輸出主導での成長が落としどころと考えているだけなんです。
という齊藤氏の話が、大方の経済学者の常識である。量的緩和でインフレになるという因果関係を証明した経済学者は1人もいない。浜田宏一氏や岩田規久男氏の「期待にきくかもしれない」というあやしげな話は、学会誌には受理されていない。つまりリフレは経済学の非常識なのだ。
では、なぜ株価が上がっているのだろうか? 藤沢数希氏のいうように、株式投資家がバカだからである。株式分割で株価が上がると信じるnoise traderが多ければ株価が上がるように、黒田総裁の「念力」でインフレになると信じる投資家が多ければ株価は上がるだろう。そういう錯覚は、かつての日本や2000年代のアメリカのように5年ぐらいは続くが、それ以上は続かない。そういうバカを煽動する長谷川氏のような連中はいつも出てくるが、相場はバカでもうけてバカを殺すのだ。
追記:長谷川氏は東京新聞の論説副主幹でありながら、週刊誌や夕刊紙でアルバイト原稿をたくさん書いている。普通は論説委員の言論は社を代表する重いものだから、他の媒体に書くことは考えられない。東京新聞は数十万部のミニコミみたいなものだからどうでもいいのかもしれないが、中日新聞社の倫理規定はどうなっているのか。