投資家にとって未体験ゾーンに突入した日本経済 --- 岡本 裕明

アゴラ

経済雑感は大体月初の金曜日に書かせていただいております。理由はアメリカの雇用統計が発表されるからであります。アメリカの雇用統計は毎月定例的に発表される各種統計数字の中ではGDPと並び、最も注目される指標のひとつであります。日本ではこれほど強く反応しないのですが、アメリカやカナダはいかに雇用が景気と直結しているか物語っています。本日発表された2月の雇用統計は改善が見込まれていた事前予想をはるかに上回る数字となりました。事前予想は16万5000件増で発表は23万6000件増、失業率も改善し、まさにアメリカが回復の道を着々と築いているように思えます。


雇用統計のみならず、住宅指標も改善を続けており、アメリカの住宅バブルがまた始まった、ということを述べている人もいらっしゃいますが、それには程遠く、またある大きな視点をはずしています。それはシェールガス革命による産業全体へのマグニチュードを考慮していないということかもしれません。私はシェールガスに対して相当早い時期から注目していました。そして、それがあらゆる方面にじわじわと影響を及ぼしています。

オバマ大統領の任期が切れるまでにアメリカはエネルギー自給から輸出まで出来る国家に変わります。アメリカはそれまで輸入に頼り貿易赤字が膨らむ一方といわれておりました。アメリカの輸出産品は農産物という皮肉に近い話までありました。しかし、エネルギーの自給、そして、それを輸出する産業構造の変化はアメリカの内需そのものに大きな影響を与えるのみならず、石油価格の抑制、更にはロシアを含めた国家間の力関係の変化も起こしうるのです。つまり、今、上りつつある階段とは今までの景気変動とは違うエッセンスがある、という点において経済指標等の読解の仕方を変えていかねばならないと思うのです。

今、円がドルに対して96円台という水準まで下がってきています。理由はアメリカのこの着実な経済回復振りが主因で、結果としてドルがどの通貨に対しても強含むなかで円も売られるという流れであります。カナダドルも対ドルで実に安くなりアメリカの物価が高く感じるようになってきました。私は年初にある雑誌に今年調子がよいのはアメリカと日本、不調なのがカナダと中国と書かせていただきました。基本的にはその流れかと思います。

カナダも目立たないながらも今日発表になった2月の雇用統計は事前予想の7500人増に対して50700人増で1月のネット減をカバーした形になりました。ただし、今週のカナダ中央銀行のステートメントからはカナダが当面政策金利を上げることはなさそうだという基調で経済の弱々しさから回復は遠いという印象付けになっています。これはこのブログで数年前から指摘していた通りの展開であります。特にトロント、バンクーバーの住宅市況は当面調整の範囲から離脱できないと思われます。更にカナダの移民政策の見直しがどうもすっきりしないような感じがしますので政策の動き次第では変化がありそうです。なお、ブリテッシュコロンビア州も5月に総選挙がありますが、政権交代があるかもしれません。

最後に日本ですが、この株式市況は80年代のバブルまみれの頃の株の動きにそっくりだ、と思わず、うなってしまいました。当時はこんな感じでした。ただ、業種別に見てみると割とまばらな動きで、例えばバイオ関連はiPS細胞というだけで株価が何倍にもなっている銘柄、あるいは販売が好調だとされるファストリテイリングなどは史上最高値となっているようですが、金融や電機はそこそこですし、成長の三本矢で本来一番反応がよさそうな建設もそう上がった感じはしません。日経平均の上昇の割には一般の個人投資家は案外儲けていないのかもしれませんね。

ただ、今の株式市場は経験則が当てはまりませんのでいくところまで行くという感じがいたします。多くのアナリストや専門家も解説にやや、戸惑いを感じさせる状況であります。ある意味、多くの日本の株式投資家にとって未体験ゾーンにいる、といったらよいのかもしれませんね。

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2013年3月9日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。