Twitter や Facebook のタイムラインは、未来のメディアのあり方を示唆している。メディアとコンテンツが爆発的に増え、情報発信がリアルタイム化する時代。その最適なメディア形式の未来を構想する。
さまざまな型のコンテンツ、さまざまな情報源に対して統合的に、かつ的確にアクセスできるもの。
加えて、最も快適にそれをナビゲーションするユーザーインターフェイス(UI)。
これを“ユニバーサルなメディアブラウザ(普遍的なメディア閲覧ソフトウェア)”と定義するなら、それは“新たな Web ブラウザ”の発明を意味するかもしれません。
ヒントは、すでに Blog on Digital Media で何度か言及してきたストリーム(タイムライン)型メディアにあります(たとえば → これ や これ)。
ストリーム型メディアの実装例は、“商業(Web)メディア”においては、新鋭メディア Quartz などがありますが、いまだ主流を占めるとはいえません。
けれど、ブログ形式の流れを汲むメディアでは、時系列(タイムライン型)の記事配置のほうが一般的です。むろん、ブログの影響下にあったとしても、商業メディアではタイムラインとは異なる記事へのリンク集を“トップページ”(インデックスページ)として設ける従来メディアとの折衷型がほとんどなのですが。
一方、モバイルアプリでは、ITmedia アプリをはじめとしてタイムライン型メディアの実装例があります。
また、Facebook や Twitter など、商業メディアをしのぐ影響力あるソーシャルメディアでは、タイムラインを UI の中核にすえるのは常識になっていることは指摘するまでもありません。
ストリーム(タイムライン)型メディアがユーザーにもたらすメリットは、大きく3つと思えます。
- “いま何が起きているか”という情報ニーズへの最短の解である
- 大型ディスプレイからモバイル機器の小型ディスプレイまで、ユーザーのメディアアクセス環境の遷移に柔軟である
- コンテンツ間の移動操作は“無限スクロール”中心であり、操作が非常にシンプルである
筆者が、ストリーム型メディアとそれを統合するユニバーサルなメディアブラウザというアイデアに注目する事情についても述べておきましょう。
ストリーム型メディアが台頭する背景には、四六時中情報を発信(更新)するメディア主体が極端に増えたことがあります。
筆者自身がそうであるように、インターネットを用いればだれもが少ない負担で情報発信者となれる時代です。
この“だれも”が、いずれは“どんなものでも”となっていくことは間違いありません。
今後は、ヒトに限らず自動車や電車、バス、そして、家電製品のなど多くのモノまでが、続々と“情報発信者”へと連なっていくことでしょう。
発信されるコンテンツの量が爆発的に増えているだけでなく、それが24時間化していることも大きな異変です。
大小無数のメディアが間断なくコンテンツを発信し続ける社会は、大小無数のラジオ局が24時間放送を続けるのに似たストリーム型情報社会といえるかもしれません。
Facebook や Twitter 上にこのような情報社会の一端を見ることができます。このことは情報消費への意欲の高い人々から順番に、徐々にストリーム型の情報消費(コンテンツ受信のスタイル)へとシフトをしていることを示すものです。
つまり、ソーシャルメディアの中に、すでにユニバーサルなメディアブラウザの実装的な萌芽があるのです。
大小の放送局という比喩を用いましたが、ユーザーの情報選択も、チューナーで周波数を合わせるような“選局”、もしくはチューニングという行為に近づいていくことでしょう。(Twitter や Facebook では、その選局を“友だち”の選択として行っている)
こんなメディアの近未来図を描く研究が米国にあります。
CNET Japan 掲載記事「『未来のブラウザはストリームブラウザになる』–米イェール大D・ジェランター教授」(この記事の基となった Wired 記事は → こちら )がその動きを紹介しています。
人々が本当に欲しているのは、情報に「チャンネルを合わせる」ことだ。近い将来、サイバースフィアには莫大な数のライフストリームが存在するようになるので、われわれの基本的なソフトウェアはストリームブラウザになるだろう。それは、現在のブラウザに似ているが、ストリームの追加、削除、およびナビゲートも行えるように設計される。
タイムストリーム内のコンテンツ検索は、ストリーム代数学の問題だ。それは、今日のウェブのような空間に基づく構造の代数学より簡単だ。2つのタイムストリームを足すと、3つめのタイムストリームができる(単純な例では、AP のニュースフィードと筆者の友人である Freeman 氏のブログストリームを統合して、時系列で表示させるということ)。そして、コンテンツ検索はストリームの引き算の問題である(「クランベリー」に言及しないすべてのエントリーを減じるだけで、それに言及するすべてのエントリーを得ることができる)。ストリーム代数学が持つシンプルで合理的な特徴には、大きなメリットがある。それは、オーダーメイドの情報が得られることだ。
記事で紹介される野心的な研究は、World Wide Web がもたらした情報のリンク関係的世界観に対し、情報の時系列的な世界観を対置します。それは「現在の『空間に基づくウェブ』から『時間に基づくワールドストリーム』へ移行」させようとするのです。
Web 的世界の歩み方(ナビゲーション)は、関連リンクをたどりながらページ間を遷移することです。ワールドストリーム的なそれでは、ナビゲーションは、「チャンネルを合わせ」(実際は不要情報を排除する)、現在から過去に向かってスクロールすることへと変化します。
リンク的な情報配置に最適化されたメディア受信機が、Web ブラウザだとすれば、「ワールドストリーム」的世界観に最適化されたメディア受信機が求められます。それが記事のタイトルに表われた「ストリームブラウザ」という概念なのです。筆者(藤村)が考えるユニバーサルなメディアブラウザとはそのようなものを指しています。
もし、ユニバーサルなメディアブラウザが与えられたとすれば、情報(メディア)消費のスタイルはどう変化するでしょうか?
ユーザーは、まず最初に統合されたひとつのメディアストリームに接することになります。
ストリーム内のコンテンツの粒度にチューニングを加えれば、通勤時間の車中に適した“メディア”が動的に生成できるかもしれません。あるいは、週末の時間のある際には、もっとたくさんのコンテンツをというようにチューニングできるでしょう。
もっとコンテンツ数を絞り、代わりに読み応えのあるものをピックアップすることもできそうです。
メインのストリームに多種多様なストリームチャンネルを足し合わせれば、新鮮な発見のあるメディアストリームを得られるかもしれません。ビジネス寄りからエンターテインメント寄りへというように、メディアのテイストを滑らかに遷移させることも可能でしょう。
このようなスタイルが、スマートデバイスの普及を前提にした“リーンバック2.0”(参考 → こちら)を加速するのは間違いありません。
キーボードとマウスといった入力デバイスを多く用いるアクティブな情報探索(リーンフォワード)スタイルは、PC という情報機器と情報探索にアクティブなユーザーの特性に適したものでした。スマートデバイスではユーザーからの入力は少なくなっていきます。代わってごくシンプルな操作で十分にナビゲーションできるストリーム型メディアが台頭します。タッチ操作を中心としたスマートデバイスの特性に適しているからです。
こう考えると、ストリーム型メディアとユニバーサルなメディアブラウザの誕生は、ソーシャル(であり、かつパーソナルな)メディアの誕生と、モバイルデバイスの多様化に、ぴったりと重なり合った変化だと理解できます。
いまだイメージの中にあるユニバーサルなメディアブラウザですが、その実装形についてもう少し踏み込んで言及しておきましょう。
ユニバーサルなメディアブラウザは、上記のようにユーザーにあらかじめひとつのデフォルトであるメディアストリームを提供すると考えます。これには一般的に人気や知名度の高いニュースフィードを用いられるでしょう。
並行して、いくつものメディア(ストリーム)チャンネルを用意します。Twitter や Facebook といったソーシャルメディアストリームもそこに含みます。
ユーザーは、テレビやラジオに対してそうするように、必要に応じてチャンネルを切り換えてコンテンツを楽しむことができます。
しかし、ユニバーサルなメディアブラウザの特徴は、選択したいくつものチャンネルを総合したものをデフォルトのストリームとすることができることです。これは、一人ひとりのユーザー専用のパーソナルなメディアストリームの生成を意味します(パーソナル化)。
ユニバーサルなメディアブラウザは、PC からポケットに入るスマートフォンなど多種多様なデバイス上で稼働させるため、軽い実装であることが必要です。そのためにも、このメディアブラウザのために、各種のメディアストリームを選択可能なチャンネルとして複数提供する外部サービスが必要になるでしょう。
「メディアチャンネルサーバー」と呼ぶべきこのサービスは、多種多様に発信されるコンテンツを発見しては、メディアブラウザに表示しやすい情報形式に変換するとともに、これらを豊富なメニューとして提供します。
商業メディアがメディアブラウザへの表示を意識しなくとも、メディアチャンネルサーバーはそれを自動的に収集しメディアブラウザに適したデータへと変換を行います。
価値の高いコンテンツを創造できる商業メディアは、メディアブラウザへと配信されるストリームの情報源の一つひとつとしてその存在価値を発揮し続けるはずです。
ただし、ユーザーがそれらを取捨選択してユニバーサルなメディアストリームを生成すること(パーソナライズすること)を妨げることはできないものと展望します。
(藤村)