きのうの産業競争力会議で「解雇を原則自由に」という提案が出たようだ。さっそく労組から反発の声が出ているが、こういう問題提起の仕方だと、また小泉政権のときの失敗を繰り返しそうな気がする。あのときも「格差が拡大する」といった野党のキャンペーンにやられた。
むしろ今、雇用改革を必要としているのは、労働者である。優良企業だった電機メーカーでも何万人も希望退職が出る現状では、もはや日本中の企業がみんな「ブラック企業」になりつつある。経営者が終身雇用を約束しても、会社がつぶれたらおしまいだ。必要なのは、守れない約束を無理やり守らせる規制ではなく、約束が守れなかったとき労働者を守るルールである。
労働基準法を改正して解雇ルールを明確化することがベストだが、これはいろいろな審議会で「労働側委員」が反対するので絶望的だ。それより簡単な改革として、金銭的な補償で解雇できるようにすることだ。外資では「退職パッケージ」を払って実質的に金銭で解決している。日本の企業でも、やろうと思えばできる。
今でも中小企業は、かなり自由に解雇しており、雇用契約を結んでいない企業も多い。問題は大企業である。中高年社員の雇用を死守する代わりに新規採用を絞って非正社員を増やす。これが賃下げ圧力としてデフレの原因になっている。
これは今の日本のサラリーマンの現状を考えれば、当然ともいえる。40過ぎて労働市場にほうり出されて、履歴書に書ける専門能力をもっている人はほとんどいないだろう。再就職できるとしても、中小企業に再就職すると大きく減収になるのでいやがる。このミスマッチが労働生産性を下げ、成長率を低下させている。
本来、会社は労働者の乗り物にすぎない。沈み始めたら乗り換えればいいし、沈む船を助ける必要もない。労働者を企業から解放するには、まず企業年金をポータブルにし、退職一時金の優遇税制をやめ、専門職大学院や職業訓練校を増やしてITなどのスキルを身につける必要があろう。生活保護は廃止し、こうした職業訓練を条件とする失業保険に統一すべきだ。
だから企業に雇用責任を負わすのはやめ、その代わりモラトリアム法のような企業に対する補助金や政策金融は廃止すべきだ。その財源は、すべて労働者の保護に回す。企業単位のタテ型セーフティネットから、労働者がヨコに動ける社会的なセーフティネットに変えるしかない。それなしで「解雇の自由」論議だけが先行すると、またつぶされるだろう。
いずれにせよ日本経済を再生させる改革の本丸は、金融政策ではなく労働市場である。安倍首相もくだらない日銀バッシングは終わりにして、そろそろ本質的な問題に手をつけてほしい。来週のアゴラチャンネルでは、城繁幸氏とこの問題を議論する予定だ。