昨年末、衆議院選挙が近づいた時期に「自民党が徴兵制導入を検討している」というデマが飛んだことがありました。この話は結構定期的に出るネタなので私は当初「ああ、またか」とスルーしていたのですが、世の中一般ではあまりデマと知られていないようです。そこで、安倍政権に変わり憲法記念日も近づきつつある昨今、この話を書いておくことにします。
ちなみに写真は厚木に着陸しようとしている航空自衛隊のC-130輸送機で私が撮影したものです。記事本文とは関係ありません。
さて、記憶に残っているところでは2010年の3月4日に共同通信がこんな報道をしていますね。
共同通信(2010-0304)「自民党、徴兵制を示唆」
http://www.47news.jp/CN/201003/CN2010030401000592.html
タイトル:自民、徴兵制検討を示唆 5月めど、改憲案修正へ
本文: 自民党憲法改正推進本部(本部長・保利耕輔前政調会長)は4日の会合で、徴兵制導入の検討を示唆するなど保守色を強く打ち出した論点を公表した。(後略)
3年前の報道をWebに残しているところは共同通信を褒めてもいいのですが、肝心の記事内容は大変クオリティが低いものです。というのは、
「徴兵制導入の検討を示唆する」
という、記事タイトルにもなっている一節が完全に事実誤認だからです。
この報道に対して自民党は即座に公式に否定しています。
自民党声明(2010-0304)
http://www.jimin.jp/activity/discourse/098612.html
“徴兵制検討”との一部報道について 大島理森幹事長コメント(2010/03/04)
本日の憲法改正推進本部で、わが党が徴兵制導入の検討を打ち出したかのような一部報道があるが、事実関係について誤認がある。
論点整理は、あくまでも他の民主主義国家の現状を整理したものにすぎない。
いずれにしても、わが党が徴兵制を検討することはない。
共同通信(2010-0304)が出たとき、私は電車で移動中にその報道を目にして「いったい何の冗談だこれは?」と思ったものです。というのは、自民党から「徴兵制を検討する」なんて案が真面目に出てくるはずがないので。
実際、陸上自衛隊出身の佐藤正久参院議員(当時:自民党国防部会長、現在:防衛大臣政務官)はその当日twitterでこういう発言をしています。
https://twitter.com/SatoMasahisa/status/9971000885
ネットで「自民、徴兵制検討を示唆、改憲案修正へ」と報道。しかし国防部会長の佐藤も知らないのに 何故そのような報道がでるのだろうか?佐藤は今日一日、予算委員会だった。先程まで政調会長の石破氏と一緒だったが彼も知らないという。憲法改正推進本部で議論があったのだろうか? (2010年3月4日 – 21:23)
もし本当に自民党筋から「徴兵制を導入すればいい」というような発言が出てくるとしたら、事情を何も分かっていない馬鹿な議員が軽いジョークでも飛ばすつもりで言ったときぐらいしかあり得ません。
「徴兵制」というのはそれぐらいあり得ないことです。
というのはどういう理由でかというと、
徴兵で取った人員では現代の軍事組織は維持できない
からです。これは一般の人には知られていませんが、多少とも軍事知識のある人には常識です。日本で徴兵制を導入しよう、なんて話が出たら真っ先に自衛隊が反対します。
そんなことをしたら国防が崩壊しますから。防衛問題に詳しい議員の多い自民党がそんな馬鹿な構想を出すはずがありません。
「くだらん寝言言ってる暇あったら仕事しろ」
とツッコまれて終わり、というそういう話なんですよ、本来は。
ところが、そのぐらいあり得ない話を共同通信(2010-0304)は報じたわけです。「自民党、徴兵制を示唆」と。いったいこれはどういうことなのか。
あまりにもあり得ない話なので、当時も軍事クラスタは一斉に反応しましたが、その結果、「共同通信の誤報」ということで落ち着きました。
“5年前に徴兵制禁止と言っていた自民党が、今度は徴兵制を検討?⇒即座に否定、共同通信の誤報か : 週刊オブイェクト”
http://obiekt.seesaa.net/article/142770473.html
そうなると今度は
なぜ共同通信はそのような誤報をしてしまったのか?
というほうが問題として浮上してきます。
既に書いたように、「自民党が徴兵制を検討」なんていうネタは「くだらん寝言言ってる暇あったら仕事しろ」と突っ込まれて終わり、というぐらいのあり得ない話なのですが、共同通信の記者、キャップ、デスクはそれを知らなかったのでしょうか。それとも知っていてあえて
というタイトルで記事を書いたのでしょうか。
記者からデスクまで知らなかったのであれば政治報道に関わる者として不勉強極まる話であり、知っていてあえてこのタイトルをつけたのであれば政治報道に関わる者として不誠実極まる話です。
なんにしても、現代の軍事組織においては徴兵制は成り立ちませんし、「徴兵制廃止、志願制への移行」は世界中共通する流れです。
にもかかわらず、3年前のこの共同通信の誤報をいまだにとりあげて「自民党が徴兵制を導入しようとしている!」と騒ぐジャーナリストもいます↓。
http://twitter.com/iwakamiyasumi/status/274496010447888385
さあ、どうする? RT (ID略) 【軍国主義復活へ】自民、徴兵制検討を示唆 5月めど、改憲案修正へhttp://t.co/XSHr49a7
このジャーナリスト氏も、徴兵制というのが現代の少なくとも先進国の軍隊ではありえないことを知らないのでしょうか、それとも(以下略)。
上記のジャーナリスト氏によるtwitter発言は2012年11月末のものですが、それ以前から何度もこの共同通信(2010-0304)を根拠にして自民党批判をする声が間欠的に再燃しています。
“共同通信の自民徴兵制検討デマに、未だに釣られる馬鹿達 – Togetter”
http://togetter.com/li/394785
昨年も選挙が近づいたころに自民党へのネガティブキャンペーンの一環と思われるこの種の発言が増えていました。
政権が代わり、憲法記念日が近づきつつあるこの時期、またこのネタが再燃するかもしれません。もし身近にこのデマを信じてしまっている人がいたら、それは有名なデマであることを教えてあげてください。