日本民間放送連盟ラジオ委員会(加盟99局)が業界一丸でのデジタル化を断念したと、朝日新聞が報道している。記事によるとNHKも消極的だそうだ。一方、日本経済新聞は、FM東京が一年間前倒しし、13年度にデジタルラジオを開始すると報じている。
受信機が普及しなければビジネスとして成立しないが、携帯端末に組み込む形で販売しているNOTTVと違って、デジタルラジオには受信機が普及する見通しがまったくない。推進派のFM東京がいくら意地を張っても、失敗は目に見えている。
テレビのデジタル化で空いたVHFの1~3チャンネル(90~108MHz)、すなわちVHF-Lowをデジタルラジオは利用する。1局しか開局しないという、電波の利用効率が著しく低い状態を総務省は許すのだろうか。それとも、この帯域を他に転用するのだろうか。
VHF-Lowを利用する際の問題の一つが長いアンテナである。FMラジオについているのとほぼ同じ長さが必要だから、携帯端末に組み込むのはむずかしい。後利用は、長いアンテナが支障にならない用途に限定される。
テレビのデジタル化の跡地には、もう一つ無理な計画がある。それが、700MHz帯のITSである。交差点での出会い頭衝突を防止するというのだが、これには決定的な問題がある。自分の車と相手の双方に搭載されていないと役立たないのだ。普及率が50%で衝突防止率は25%、普及率が70%になっても衝突防止率は49%という計算になる。普及率より衝突防止率は必ず低い。効果をなかなか実感できないので、積極的に搭載しようという気持ちは起きない。
700MHz帯の配分計画は、このITSを前提として作られたため、LTEへの割当は削減された。700MHz帯ITSはわが国だけの計画なので、これから海外に展開していく可能性もない。
いっそのこと、この700MHz帯ITSをVHF-Lowに移したらどうだろう。全く見通しの立たないデジタルラジオよりは、少ないとはいえ将来に可能性があるからだ(デフォルトで新車に組み込んで販売できるので)。車載用だから長いアンテナも問題にならない。一方、LTE帯域は拡大し、将来の混雑に備えられる。
ラジオ権益を守りたかった業界の意向から生まれたのが、デジタルラジオ計画であるが、既存秩序重視の周波数配分計画は失敗しつつある。この際、LTE拡大という、国民の期待に応える方向に総務省は舵を切りなおしてはどうか。
山田肇 -東洋大学経済学部-