先日、子どもたちを連れて、上野の国立科学博物館に行ってみて驚いた。想像以上に面白かったのだ。博物館と聞くと、古臭いものが学術的に、面白みなく展示されているというイメージがある。だから、子どもたちを連れて行く先も、これまでは動物園や水族館がほとんどだった。厳密には動物園や水族館も博物館の一種だが、両者が生きた生き物に触れられるエンターテインメント性の高い施設というイメージに対して、博物館という名前がつく施設は古臭くてつまらないイメージがある。
そのイメージを壊してくれたのが、上述の国立科学博物館だ。最近、我が家の4歳と2歳の子どもたちは、動物、魚、鳥、昆虫に加え、恐竜に関心を持つようになった。そこで、恐竜の骨を見に行くのがメインの目的だったわけだが、その期待通り、恐竜たちの超巨大な骨は圧巻だった。あれだけ巨大な生物が人類誕生前に生きていたなんて想像すると、この地球がずっと面白くみえる。好奇心の塊である子どもだけでなく、好奇心を失いかけた大人にも子どものようなキラキラした目を取り戻させてくれる。
他にも様々な動物の剥製や、クジラの骨、昆虫の標本、最近NHKの番組で話題になったダイオウイカなど興奮ポイントがいくつもあった。ゲーム感覚で体験できる科学コーナーも楽しめた。大人も子どもも十分エンターテインメントとして楽しめるし、もちろん学びの施設としての価値も高い。日本の博物館全てが、この国立科学博物館のように充実しているわけではないが、博物館をもっと利用し、楽しみ、学ぶべきだと強く感じた。
文部科学省の社会教育調査では、地方自治体や公益法人などが設置し都道府県教育委員会の審査を受けた「登録博物館」、一定の要件を満たして文科省や都道府県教委の指定を受けた「博物館相当施設」、施設や展示が一定基準以上で博物館と同種の事業を手がける「博物館類似施設」をまとめており、その総計は2008年10月時点で5773館に上る。そのうち、比較的規模の小さい類似施設は全国で4528館と博物館全体の78%強を占める。日本経済が低迷する昨今、博物館全体の傾向として厳しい財政・運営状況に置かれており、閉館に追いやられる館もある。
博物館はその社会の資産であり、子どもから社会人にまで、日常から離れた学びの場を提供してくれる貴重な施設だ。エンターテインメントが多様化している今日、集客数を増やすことは決して容易なことではない。とはいえ、旭山動物園や鉄道博物館など、企画やマーケティングの工夫によって人気の博物館もあれば、東京おもちゃ美術館や京都国際マンガミュージアムといったエッジの効いたものもある。それらの成功例を互いが研究し合い、もっと面白くて、もっと学べる博物館を充実させてほしい。
企業は財政的協賛だけでなく、企画・マーケティングのノウハウを活用したプロボノ支援を、NPOは博物館のファンドレイジング支援や放課後/生涯学習プログラムなどのコラボ企画を、学校・教育界は授業の学習内容と連動させた体験授業を、行政は博物館を利用した地域興しを、官民協同で大いに工夫しながら推進してほしい。
さらには国立の基幹博物館は、海外の観光客を引き寄せるくらいのコンテンツと発信力を磨いてほしい。我々も海外に行けば、たいてい有名な美術館や博物館に行く。そこで、その国の文化力や歴史の深さを短時間で疑似体験するわけだ。日本にも誇るべき歴史と文化、豊かで多様な自然があるが、世界的に著名な博物館があるとは言い難い。日本の新興文化であるマンガ・アニメを活用するのもよし、テレビ局と組んでエンタメ性と発信力を強化するのもよいだろう。
麻生財務大臣!――「国営マンガ喫茶」と揶揄されて民主党に廃案にされた「国立メディア芸術総合センター」の案を、上野の博物館・美術館群と連動させ、もっとスケールの大きい一大ミュージアム・プロジェクトにしませんか? その際には、村上隆や安藤忠雄、宮崎駿、北野武、毛利衛、松岡正剛、松浦晃一郎(元ユネスコ事務局長)、柳井正といった日本のソフトパワーを担う一線の人たちを招集して一案考えてもらい、ついでにファンドレイジングを呼びかけてもらうのもよいだろう。
桜も咲き始め、学校も春休みに入る。社会人にとっても年度の変わる節目だ。話は大きくなってしまったが、日本には全国各地に6千近くの博物館がある。大人も子どもも、日常とはちょっと離れた空間で、楽しんで学べる博物館に行ってみよう。何らかの発見と学びがあるはずだ。そして、日本にとって学びの資産である博物館を盛り上げるために、できることを考えてみよう。
本山 勝寛
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