週末のニュースでキプロスにおいて銀行預金に応じて突如課税されると聞いて仰天した人は少なくないでしょう。まさに寝耳に水に近い話です。預金額が10万ユーロ(約1250万円)以上なら9.9%、それ以下の人は6.75%の税金を一律に銀行が差っ引くと聞けば現金自動引き出し機に人が殺到するのは当たり前、一種の取り付け騒ぎということになります。
この理解に苦しむアイディアを生み出したのはユーロ圏当局。なぜこんなことになったのでしょうか?
まずキプロスですがトルコの南に浮かぶ島国で面積は鹿児島県ぐらいの人口87万人の小国です。この国、ユーロに加盟しており、経済そのものは安定していました。主に観光業なのですが、それよりロシアや旧東欧のタックスヘイブンの国として有名でロシアに投資するならキプロス経由ともいわれています。ですから今でもロシアとの関係は非常に強いのです。また最近は近海での2000億立方メートル規模の天然ガスがでることが確認されており、同国を潤すはずでした。
ところが同国の銀行が近隣であるギリシャ関連に投資し、結果としてギリシャ危機の際、キプロスの銀行は大きな痛手を負うことになりました。GDPで2兆円規模の小国ですからこれをリカバーする手段が限られています。そのため、国民に広くその負担を強いるという強攻策に出たわけです。
ところがこの決定に関しロシアとはきちんと連絡を取り合っていなかったこともあり、ロシアが激怒しているというのが現状です。また、本来、ユーロ当局からの課税案に対して18日(日曜日)にキプロス議会でその承認を取り付けるはずでしたがそれは延期され、19日の月曜日の銀行の営業は停止したはずです。取り付け問題が生じますから議会承認が出るまで銀行業務は全部止めるべきです。現在、議会承認は水曜日に持ち越されるという情報です。ただし、いつまでも銀行をクローズできませんので本件解決が長引くようならば小額の取引には応じるのではないかと思います。
さて、この議会の決定はユーロの先行きに大きく影響するといわれています。なぜなら、仮に議会がユーロ当局の課税案にNOを突きつければキプロスはデフォルトになる公算があり、ユーロ脱退に繋がる可能性を指摘されています。YESならば国民をどう説得するか、そのあたりが大きな山場となりそうです。また、債権所有者はこの適用を受けないというのがまったく理解に苦しむところです。
アナスアシアディス大統領は国民感情を抑えるためにもユーロ当局と課税率の緩和措置、、および、天然ガスからの利益を担保に供するなどの案をもって交渉を続けているものと思われます。
私はこのニュースを聞いてユーロ当局者はかなり無謀な案を提示したと感じています。もともと同国は比較的優等生でしたがギリシャ問題に引っ張られてて連鎖反応を示したということです。そして、大きな国ならともかく、小国であるがゆえにその損失をカバーし切れなかったわけで問題の本質がどこにあるか、と考えた時、それを国民に広く、しかも直接的に負担させるのはあまりにも厳しい政策だと思います。
その昔、預金封鎖なるものがアメリカや日本で行われたことがあります。また、香港や台湾の人は中国当局の鶴の一声で自分の財が一夜にして消え去るというリスクをいつもどこかに感じています。しかし、それは異常事態であって国民の国家への信頼は崩壊してしまいます。キプロスの件も、多分ですが、どこかで折衷案が出てくると思いますが、ユーロの構造問題は結局ユーロ圏内の人々を本当に幸せにしているのか、疑問を感じないわけにはいきません。
今日はこのぐらいにしましょうか?
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2013年3月19日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。