西武再建をめぐる日米資本の暗闘 --- 岡本 裕明

アゴラ

最近、西武池袋線の延長である西武秩父線(吾野~西武秩父)を廃止する案があるという報道を目にした方も多いと思います。もっとも西武鉄道利用者でない限り興味ある話ではないとは思います。では西武ライオンズの身売り案ならどうでしょう?

これだけなら週刊誌が飛びつきそうな話なのですが、なぜか、新聞ではあまり目立たないネタなのです。なにがあるのでしょうか? 本来なら私のテリトリーではないのですが、ずっと気になっていたネタですので今日はこれについて書いてみましょう。まずは簡単にあらすじをまとめておきます。


堤義明氏率いる西武鉄道は証取法違反で2004年に東証上場廃止となりました。その後、みずほ銀行主導でその再建に取り組みました。そのリーダーがみずほ出身(成蹊ー東大ー一勧)の後藤高志氏です。そしてコクドを含む西武HDを作り上げました。金融機関がそこまで力を入れているのはグループ会社の一部債権の回収懸念及び貸付金の回収、及び堤家の色を薄めるのが主眼だったと思います。

そのためアメリカのサーベラスにも1000億円ほど増資を引き受けてもらい、現在西武HDの32.4%の筆頭株主であります。そのサーベラスが3月11日にこの株式の買い増しの意向を発表しました。理由は33.3%以上なら経営内容の拒否権が行使できるからです。

このサーベラスは西武に社長を送り込みアメリカ的な経営の効率化を図るという目的であり、そのために上述のような秩父線の廃止や西武球団の売却の検討、更には高輪の再開発案などが浮上しているようです。究極的には投資している資本を株式再上場させることで高値で売り抜けるというシナリオは火を見るよりも明らかであります。

そしてサーベラスのもってきた役者が五味廣文(元金融庁長官)、生田正治(元郵政公社総裁)氏らであり、6月の株主総会に望みます。

ただ、現経営陣=みずほ側も応戦の構えで有識者会議には古森重隆(富士フィルム)、葛西敬之(JR東海)、清野智(JR東日本)氏らそうそうのメンバーであります。これは後藤高志氏が安倍首相の成蹊ラインである晋成会の会長であることから集めたのでしょうか?

つまり、久々の大型のハゲタカ対日本の戦いということになります。何年か後には小説が出来るネタになりそうです。さて、ここまでの書き方ではハゲタカは悪いというニュアンスが強いと思いますが、みずほも積極経営というより貸し金の回収目的が目立ってしまっています。一説によればサーベラスの1000億円はそっくりみずほへの返済に流れたともいわれています。つまり西武は企業として成長したかといえばこの9年間表面的にはほとんど何もなかったような気がします。

となれば株主権利を主張するサーベラスと日本式金融機関の護送による現経営陣との金融の戦いとも取れます。

この戦い、どちらが勝つか分かりません。しかし、サーベラスの掲げる経営効率化案は頂けない内容です。理由は鉄道の公共性を無視していること、西武ライオンズは西武沿線や地元経済にとって極めて重要であり、直接的な収益で身売りをちらつかせるのはあらゆる意味で否定されやすい状況になると思っています。

法廷闘争までもつれ込むことを想定した場合、サーベラスは結局お金だけが目的ですので1000億円の金利、時間、それに費やすエネルギー、更には会社のネガティブイメージというリスクを取るのかどうかということになります。私は北米で長くビジネスをしながら身をもって思っていることは、勝てない喧嘩はしない、ということであります。

一般紙があまり書かない訳も気になるところです。あるいはこれから書くのでしょうか? ところで西武線の吾野は山の中。レッドアロー号が吾野止まりになるとは私には想像することが困難であります。西武秩父はそれなりに観光のメッカに育つ素養はあるはずなのですが。西武線に乗ってあのあたりの山に遠足に行った日が思い出されます。

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2013年3月22日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。