Google リーダーのサービス終了が話題となっている。数多くのオルタナティブが名乗りをあげるが、メディア体験全体を刷新する来るべきメディアブラウザこそがその存在となるはずだ。
現在最も普及していると見られる RSS リーダー Google リーダーが、そのサービス終了を発表しました。
一方で、米の大手ニュース企業やインターネット企業は、“ニュースリーダー”アプリを開発するベンチャーの買収を重ねています。
2年前には、Flipboard 対抗と目されていたニュースリーダーアプリ Zite をCNNが買収。最近では、LinkedIn が同じく Pulse を買収(の方向)、さらに米 Yahoo! がニュース要約配信アプリ Summly の買収を発表したばかりです。
Google リーダーが挫折を見せた一方で、ニュースリーダーをめぐっては、今まさにホットな状況を迎えているのです。
本稿は、RSS リーダー、その代表格であった Google リーダーの命脈が尽きようとするいま、それをニュースリーダーがめざす全体像再構築の機会として認識します。それは来るべき“メディアブラウザ”の構想への端緒となるものです。
まず、確認からです。Google リーダーとは何者であり、いったい何をめざしていたのか? です。
CNET Japan「グーグル、『Google Reader』を米国時間7月1日に終了へ」は、2005年のサービス開始当初、Google リーダーがめざした目的を述べています。
Google は Google Reader の公開日に、「ウェブ上の情報量は急激に増えている。Google Reader は、ユーザーが関心を持っているコンテンツすべてについて、整理および管理できるようにすることで、ユーザーが常に最新の情報を把握するのを支援する。最新情報を求めてお気に入りのサイトをひっきりなしにチェックする代わりに、Google Reader にその役割を任すことができる」と述べた。
上記から、Google リーダーがめざした目標は大きく2つとわかります(Google リーダーの中核である RSS リーダーそのものの解説は → こちら や こちら を参照のこと)。
- ユーザーが関心を持つコンテンツすべてを網羅する
- (上記コンテンツ群の)最新情報を把握する
この目標の重要性、妥当性はいまも失われません。
だとすれば、Google リーダーはなぜ挫折したのでしょうか?
これについて、ブロガーのえふしん氏が的確なオピニオンを述べています(F’s Garage「全収集型RSSリーダーの終焉とソーシャル化する Web」)。
問題は、既に RSS リーダーはコンテンツの価値の重み付けの舞台ではなくなってるところにあるのだろう。
RSS リーダーは、そのサイトにフィードが存在する分だけデータがコピーされ続ける。誰も見てなくても、そのページ自身に価値があるかどうかも無関係に保存しなくてはいけないし、見ないからと言って勝手に消すわけにはいかないのが RSS リーダーのサービス特性。
ポイントはこうです。RSS リーダーは、いったん登録されたメディア(コンテンツ)については、その価値がどうあろうとも機械的に追い続ける。つまり、RSS リーダーは追跡するメディア(コンテンツ)の数をてい増させ、ユーザーのコンテンツ接触の負担も高めていってしまうという難点があるのです。
たとえば、ジャーナリストの佐々木俊尚氏もこの RSS リーダーが引き寄せてしまう“無間地獄”ぶりを、「GoogleReaderが終わってしまう(上)」で描写しています。
私自身も、「これは読むべき」と考えたニュースサイトや個人ブログなどの RSS を GoogleReader に追加していった結果、いまや930ものフィードが登録されているという恐ろしい状態になってしまっている(3月14日現在)。毎日、2000ぐらいの見出しが流れてきて、まさに溺れる一歩手前のようなありさまだ。
Gmail と Google リーダーの両方に接したことのある人ならば、Google リーダーが Gmail という電子メールのユーザーインターフェイスに範をとってニュース情報を届ける仕組みを設計していることを理解しているはずです。それが電子メールと同様、情報をもれなく届けるという利便性とともに、それを追い続けることの“苦痛”を届けているということも。
Google リーダーがサービスイン当初に目指したビジョンと、現在のメディア体験上の課題とは、大きくすれ違ってしまいました。
苦痛と引き替えにしてでも多くの(ニュース)情報を消費し続ける人々にとってさえ、現在はギブアップのタイミングに差し掛かっています。
ニュースリーダーは、メディア(コンテンツ)の発見・抽出から、その豊かな閲読体験へ……という全体的なプロセスに向かって、最適化を図り機能の進化を進めるべきだったのです。
もう少し整理します。ユーザーがメディア(コンテンツ)を体験する過程は、下記のようなプロセスの全体です。
- 発見・追跡:有益なメディア(コンテンツ)を“発見”し、その最新情報を追う
- フィルター:上記コンテンツに対し絞り込みや抽出(重み付け)の判断を加える
- リーディング体験:快適にコンテンツを閲読する
- シェアとフィードバック:メディア自身へ、そして知人らの評価を伝達したり、以降の“発見”のためにフィードバックする(1.へと再帰する)
Google リーダーの終えん、RSS リーダーの黄昏(たそがれ)をめぐる話題とは、これらの一部をめぐってのものであったと理解できるはずです。
さまざまなニュースリーダーやソーシャルメディアが Google リーダーの代替をめざしています(参照 → 「Google Reader 終了ショックの波紋?代替サービスが続々と名乗りを上げる」)。
たとえば、Pulse や Reeder があります。これらは RSS リーダーとしての機能を引き継ぎながらモバイルに最適化したモダンな閲読体験を提供することで人気を得ました。
ソーシャルメディアもまたニュースリーダーの地位を得ようと意欲的です。Twitter では、すぐれた感度を備えた人物をフォローすれば、その人物のレンズを通したニュースがタイムラインに流れ込んできます。発見やフィルターを組み込んだ自分専用のニュースフィードを創り出すという点で Twitter を評価する声が高まっています。
Facebook も同様です。マーク・ザッカーバーグ CEO が「ニュースフィードは従来よりビジュアルになり、また、トピックを選びやすくなり、“最高の自分向けの新聞”のようになる」と語ったことからもその意欲は明らかです。
さらに、Instapaper、Pocket、そして Readability などブックマークサービスから発展したサービスやアプリがあります。これらは、Web やソーシャルメディアを通じて“発見”収集したコンテンツを、非同期に(広告や雑多なナビゲーションを分離して)クリーンな状態で閲読できる仕組みです。これもまた、Google リーダーで果たせなかった仕組みを発展させる試みと見なせます。
しかし、これからの課題は全体的な体験の再構築でなければなりません。
ここに筆者が提唱する“ユニバーサルなメディアブラウザ”の姿を重ね合わせて整理してみようと思います。下表がそれです。
未来のメディアブラウザは、ソーシャルメディアが果たすニュースフィード(ニュースリーダー)機能を含み込んだユニバーサルな仕組みをめざすことになるでしょう。
Web ブラウザが普遍的なクライアントへと進化してきたように、メディアリーダーにおいてもメディア単位・コンテンツ単位でアプリを起動し直すことは好まれず、いずれユニバーサル(普遍的な)ものへと収束するはずです。
ソーシャルメディアが、ニュース性の話題を発見する機会となっていることからも、メディアブラウザは、ソーシャルなストリームも融合していくことになるでしょう。さらに、そこに各メディアが用意したコンテンツストリームを加減算してユーザー一人ひとりへの最適なメディアを導き出す(カスタマイズ・パーソナライズ)という仕組みについては、すでに触れました。
Google リーダーの終えんは、来るべきメディアブラウザ誕生への序奏となるべきなのです。
(藤村)
編集部より:この記事は「BLOG ON DIGITAL MEDIA」2013年4月1日のブログより転載させていただきました。快く転載を許可してくださった藤村厚夫氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はBLOG ON DIGITAL MEDIAをご覧ください。