自動車交通を全く規制しなければ事故が頻発するが、最高時速5kmというように規制をむやみに強めても社会的利益は生まれない。そのため、時に交通事故が起きるのを甘受しつつ、社会は自動車交通を利用している。
漏えい対策を取らない情報システムをネットに接続すれば、大量の情報がさらされ社会は混乱するかもしれない。一方、ネットから隔離した閉鎖型の情報システムは、旧来の「紙のシステム」と同程度の価値しか生まない。そこで、時に情報漏えいが起きるのを甘受しつつ、情報システムは構築されるのである。
交通事故の被害は自動車保険で補償されるようになっている。一方で、EyeSight(アイサイト)に代表される事故防止技術の開発が進む。これらがあるからこそ、社会は自動車交通を受け入れている。
共通番号の情報システムでも、できる限りの技術的対策を取る必要がある。法案で「情報提供ネットワークシステムでの情報提供を行う際の連携キーとして個人番号を用いないなど、個人情報の一元管理ができない仕組みを構築」とあるのは、そのような技術的対策である。悪意を持って漏えいした者には懲役4年が課せられるようになっている。そのうえ、「国民生活にとっての個人番号その他の特定個人情報の有用性に配慮しつつ、その適正な取扱いを確保するために必要な個人番号利用事務等実施者に対する指導及び助言その他の措置を講ずることを任務とする」特定個人情報保護委員会が設置される予定である。
一方で、共通番号の情報システムの価値を高めるのが、関連業務間での連携である。内閣官房の資料には、「複数の機関間において、それぞれの機関ごとにマイナンバーやそれ以外の番号を付して管理している同一人の情報を紐付けし、相互に活用する仕組み」とある。先に説明したような対策は社会的なマイナスを減らすが、情報連携はプラスをさらに大きくするための施策である。
自動車交通も共通番号も、リスクを承知で対策を施しつつ、プラスの価値を高める方向で、社会は利活用するべきである。「駄目なものはダメ」と反対する人々には、このリスクマネジメントの発想がない。
この記事に「共通番号は危険なシステムなのか?」という表題をつけたが、回答は「はい」。だからこそ、上に書いたような対策が図られている。
山田肇 -東洋大学経済学部-