今年の4月1日より改正労働契約法が施行されました。
今回の改正で大きな話題を呼んでいるのが「契約社員を5年雇ったら無期契約を結びなさい(やや意訳)」という部分です。
この改正の社労士的なポイントは、契約社員を5年雇った場合に結ぶのはあくまで「無期契約」であること。勘違いされている方も多いようですが、改正労働契約法では5年雇ったら「正社員」にしろ、とは一言も言っていないのです。
「無期」も「正社員」も終身雇用という意味では一緒だろう、と思われるかもしれませんが、実はこの違いはかなり大きい。
なぜなら、ある社員の契約期間を有期契約から無期契約に転換した際、会社は契約期間を「無期」にさえすれば、この法律を守ったことになるからです。
普通、正社員の給与は、非正規雇用の契約社員と比較して高いのは当然として、家族手当や役職手当等の諸手当もつきます。もちろん会社の就業規則によっては昇給だってありえますし、その他労働条件においても正社員は非正規雇用と比べて優遇されています。
ですが、有期契約から無期契約に転換した社員(以下、無期社員)に対して、給与を上げる義務も、(正社員につけている)手当をつける義務も会社にはありません。なぜなら、5年雇った契約社員と無期契約を結んだ時点で会社は義務を果たしているからです。
そういった意味でいくと、
今回の件の場合、非常勤講師(という名の契約社員)の方々は自分で自分の首を絞めることになるかもしれません。
早大の件の争点はあくまで、就業規則の改正方法が違法だったという点ですが、その背景には、城繁幸さんのつぶやきにもあるとおり、「これまで上限なんて無かったんだからこれからも付けるな、で、5年経ったら無期雇用にしろ」という意図があるのは明らかです。
ですが、この論理が成り立つのなら、あなたが社長だったらどうしますか?
契約社員はもう雇わない、というのが一番の方法ですが、そうもいかないという場合には、将来的に契約社員が無期契約に転換することに備えて、労働条件をできうる限り低く抑えるしかありません。
ただし、契約更新時や有期契約から無期契約に転換する際に労働条件を引き下げることはまずできないと考えた方がいいです。
今回の改正では5年ルールの他に、「有期労働契約であることによる不利益取り扱いの禁止」という項目が、労働契約法の中に条文として加えられました。正社員で契約更新を頻繁に行うということはあまり考えられないので、契約更新は有期契約労働者が主に行うものとして考えられます。その契約更新時に労働条件を引き下げる、となれば、それは「有期労働契約であることによる不利益取り扱い」と取られても仕方ありません。
なので、契約社員の労働条件を低く抑えるなら、一番最初の契約締結時から最大限低いものにしておかなければならないのです。
また、こうしておくことで、雇い止め方法に不備があったと裁判で判断されてしまった場合など、なんらかの理由で5年未満で契約を切るはずだった社員を5年以上雇ってしまった場合の対策にもなります。
つまり、今回の5年ルールによって有期契約社員の数が減るだけでなく、ただでさえ低い契約社員の給与が、今よりさらに下がる可能性が高いわけです。
この法律改正によって契約社員は救われるのでしょうか。私には労働契約法が改正される以前よりも不幸になる未来しか頭に浮かんできません。
川嶋 英明
社会保険労務士