地方経済が輸出産業の工場立地に依存するのは危険

前田 陽次郎

山口巌氏が「円安を利用して、地方は工場立地を推進せよ」という旨の記事を書かれている。

これに対し、キヤノンの工場立地に関して一喜一憂させられた地方在住者として意見を書かせて頂く。


長崎県では2010年にデジタルカメラの製造を行うキヤノンの工場が操業開始した。

この工場が操業を開始するまでの経緯は、単純なものではない。

まずキヤノンが新工場を作ろう、ということになったのは、2000年代半ばの好業績が要因である。当然、この好業績の理由の1つに、1ドル120円前後という当時の円安があるのは間違いないだろう。

そして2008年以降、業績が急降下。その要因は、世界的な経済危機による消費の落ち込みが大きいだろうが、円高によるものも少なくない。

長崎キヤノンの設立が決まったのは、2008年7月。その後のキヤノンの業績悪化に伴い、工場立地が白紙になるのではないかと地元では心配されたが、結局予定より1年遅れで、無事操業を開始した。

この事例から思うのは、やはり為替に大きく左右される産業に地域経済を依存するのは危険だ、ということである。

また、この工場立地に際して、長崎県は「円安を背景にして業績のいい輸出産業」の誘致に精力的に努めた。まさに山口氏が前述した記事で書かれたことを実践したのである。決して、「そんな難しい事、面倒な仕事は、東、阪、名でやって下さい。自分達は今まで同様寝ています。」という姿勢だった訳ではなく、現実に工場誘致に成功したのだ。

それはさておき、地方在住者にとっては、こういう為替レートで地域経済が大きく左右される状況というのは、あまり好ましいものではないと感じる。

では地方はどうやって食っていけ、ということになるかといえば、第1次産業とか観光業に注力し、高齢者の福祉を充実させ、輸出産業の工場から得られるメリットはボーナス的なものと考えるほうがいい、と思える。それにしてはボーナスの比重が大きすぎるのだが。

じゃ地方交付税交付金に寄生し続けるのか、ということになると、地方の財源を消費税中心にすることでかなり回避できると考えるのだが、それに関しては別の機会に論じさせて頂く。

前田 陽次郎
長崎総合科学大学非常勤講師