ライフネット生命には「60代・30代の凸凹コンビ」「74年ぶりの独立系生保」などさまざまな特色があるが、その中でも大きいのが「設立時に132億円の資本調達に成功した」ということがある。
米国のベンチャー企業であれば50億、100億円規模のファイナンスが行われる例は珍しくないが、日本のベンチャー企業で、しかも売り上げが1円もない、いわば紙のプレゼンテーションだけで100億円を超える資本調達した例は極めて珍しいのではないかと思う。
では、我々はこの資金調達をどのようにして実現したのか?
理由はいくつも考えられるが、
- ビジネスモデルがシンプルで分かりやすかったこと
- ビジネスプランがかっちりしていたこと
- 説明者である出口・岩瀬の二人の強みが相互補完的であったこと
- 「一緒にやりたい」と思ってもらえる何かがあったこと
- 時代がよかったこと(リーマン・ショック前夜、ギリギリ駆け込みセーフ)
の5つに整理することができると思う。
1. まず、「ネット生保」は「生命保険のセールスをなくして、ネットでセルフサービスで買ってもらうことで保険料を安くする」という、極めてシンプルで分かりやすいビジネスモデルだ。日本だけでなく、アメリカでもヨーロッパでも、アジアでもアフリカでも、あらゆる国の人も一言で分かる。このシンプルさが大切だと思う。出資者の社内で担当者は稟議書を書いて、説明して回らなければならない。そのときに誰もがしっくりくる分かりやすい説明ができるかどうかが大切。簡単に説明できないややこしいビジネスモデルは、えてして成功しないように思う。
2. 次に当然だが、事業計画がかっちりしていることも大切。新規事業の説明を聞くと、必ずツッコミが入ってくる。「やっぱり生命保険は対面じゃないと売れないんじゃないの」「新しい会社だと信用が足りないんじゃないの」「どうやってお客さん連れてくるの」云々。予想される質問に対して、ひとつひとつロジカルに、データをもって説明できるか。それがいい計画の前提となる。そして、分からないこと、リスクであることも正直にそれを認める。
ライフネットに出資してくれたある会社の役員からは、「初めてプレゼンを聞いたときにとても感心した。我々が持っていた質問に対して、完璧な答えが事前に準備されていた。そして、分からないことは、正直に分からないと言ってくれた」、と言って頂いたことがある。
3. 社長の出口と私という、まったく異なるバックグラウンドを持つ人間がチームで説明していたことから、たいていの質問に対しては答えることができた。完璧な人間などいないのだから、チームは相互補完的であることが大切だと思う。出口は本プロジェクトを打診された際に、「自分は年寄りで生保のことはよく分かっているので、パートナーとなる人間は自分とは正反対、若くて生保のことは何も知らない人間がいい」とお願いしたそうだ。普通は自分と似たような人間をチームに選びがちなので、注意が必要だ。
4. 別の株主に、後から教えてもらった。「岩瀬さん、投資を決める上で一番大切なのは何だか分かりますか? それはビジネスプランではなく、『何故だか分からないけど、この人たちと仕事していると楽しい。一緒にやりたい』と思ってもらえるかどうかなんですよ」。プレゼンがロジカルであることはもちろん大切だが、それと同じくらい、一緒に仕事をしたいと思ってもらえる情熱と共感を呼ぶことが大切だと思う。
5. 最後に挙げたが、これがもっとも大きいかも知れない。我々が最後の52億円をクローズしたのが2008年3月31日。既に金融危機がはじまっていた。あと1日遅れて、新年度に入っていたら、1円もお金は集まらなかっただろう。経営者にとってもっとも大切なのは、運なのかもしれない。
開業前の資金調達の際、実際に使ったプレゼンテーション資料を掲載して、そのポイントを説明した本を「132億円集めたビジネスプラン」として2010年12月に出版したのですが、それが新書となってこの週末から発売されることになりました。132億円を集めるニーズがある人はそれほど大きくないかも知れないのですが、人を動かすプレゼンの作り方に興味のある方は、ぜひ手に取って見て下さい。
編集部より:このブログは岩瀬大輔氏の「生命保険 立ち上げ日誌」2013年4月21日の記事を転載させていただきました。
オリジナル原稿を読みたい方は岩瀬氏の公式ブログをご覧ください。