安倍首相が育児休業(育休)を現行の1年半から3年に伸ばす方針を決め、経済界にも要請した。女性の人材活用を経済成長の柱とする考えで、待機児童の解消と合わせてセットで発表された。
ネット上の反応をみる限り、この育休3年の方針には反対の声も多いようだ。「保育所に預けないで3年は子どもの面倒見ろってこと?」「3年もブランク空けて浦島太郎になっても、帰ってくる場所なんてないでしょ!」「保育所増設、短時間勤務の方が先でしょ!」といった具合だ。
こういった声は子育て世代ではない層以外からも、特にワーキングマザーや保育業界関係者から多いようだ。こういった反対意見は経験者や専門家の声として重く受け止めるべきだが、それでも、私は敢えて「育休3年制」を支持したい。なぜなら、育休を「最長」3年取得できるようすることは、それを義務化することではなく、希望者は取れるようにするという選択の幅を拡げる政策だからだ。
現状の最長1年半の育休では、保育園に入園しやすい4月の時期と重ならないため、やむなく0歳児で預けている家庭もある。それが最長3年となれば、じっくりと育児に専念したいという方は3年をとり、早く職場復帰したいという方は適切な時期に早めに切り上げることができる。実際に、子どもがある程度大きくなるまでは育児に専念したいという場合、1歳で預けるよりは、退職し専業主婦の道を選んでいるという方も多い。そういった育児専念派→退職→専業主婦群をある程度、職場に引き戻すことができるのではないだろうか。さらに、育児専念派が保育園ではなく自分の手で保育することを選べば、全体として保育園の競争率が下がり、早期復職派はより預けやすくなるという恩恵を受ける。
また、3年の間に2人目を妊娠すれば、復帰してすぐにまた育休という忙しいリズムを避け、落ち着いて育児に専念できる。さらに、0~1.5歳まではママが、1.5~3歳まではパパが育休を取るということも考えられる。父親の育休を促進するという観点から、夫婦の両方が育休を取得した場合、その二人目(おおかたは夫)の育児休業給付金は給与の5割ではなく、8~10割くらいに引き上げてはどうだろう。現在の日本の平均的な家庭では、妻より夫の給与の方が高い傾向にあるので、夫が育休を取ると経済的に損をする。社会的通念のみならず、経済的にも男の育休は厳しいわけだ。これを是正するには、何らかのインセンティブが必要だ。
私は2人目の子どものときに育休を取得したが、妻にとっても、1人目と2人目の子どもにとっても、そして私自身にとっても非常に有意義な期間だった。特に、遊びたいさかりで乳離れの時期でもある1~2,3歳に、夫が育休をとって妻の職場復帰をサポートすることはお互いにとってよいと思う。妻の復職直後は仕事と育児の両立に慣れずに大変なことが多い。そんな時期に、1カ月でも3カ月でも夫が育休を取り、サポートすることができれば大いに助かるだろう。男性にとっても、育休の期間は学びと発見の多い貴重な機会になる。これを機会に、男性の育休取得が増えるよう、社会が考え方を変えていくことを提案したい。
また、「浦島太郎」論についてだが、周囲の育休後復職している方々をみる限り、あまり当てはまらないように思う。もちろん、最初の1カ月程は慣れないところもあるだろうが、すぐに前の感覚を取り戻して支障なく働いている。異動や出向、転職、留学などでも最初に慣れる期間が必要なのと同じレベルだ。企業にとっても、新人を雇ってゼロから研修し直すよりも、経験のある人材に辞めずに働いてもらう方が、効率的のように思う。さらに、育児の経験が主婦層へのマーケティングや、地域への理解、仕事の時間管理などにいきるときもあるだろう。私の職場でも、3人目の子どもの育休から復職した後に課長となり、バリバリと海外出張をこなしている先輩もいる。そもそも、「3年も会社離れてたら浦島太郎で、何も分からないだろ!」みたいな言説は、会社に所属していることのみに価値を見出す旧態依然とした考え方のように思える。日本社会は、自社の勤続年数のみで人材を評価するのではなく、もっと多様な経験をもつ人材を活用すべきだ。
もちろん、保育所の増設や短時間勤務の普及を併行して進めるべきであることは言うまでもない。選択肢を拡げ、それぞれが働きやすく、子育てしやすい環境を整備していくことが重要だ。女性の人材活用に加え、人口減社会に突入した超少子高齢化の問題も深刻だ。出生率を2.0に回復させたフランスでも育休は3年取得できる(もちろん他の要因もあるが)。子どもを「社会の宝」として、社会全体で支え合い、助け合いながら育てていくべきではないだろうか。
学びのエバンジェリスト
本山勝寛