「育休3年=女性採用控え論」の根拠が弱い理由

本山 勝寛

議論百出の「育休3年制」について、当初はネット上で強い反対論のみに傾く流れに違和感を覚えたので、議論のバランスを取るため敢えて反論(支持論)を投稿させてもらった。それが、すっかり育休3年制の推進論者のようなポジションになってしまい、やや困惑しているが、一度発言した者としてもう少しだけこの問題について考えてみたい。

総じて言えることは、多くの方が「女性全員が3年丸々育休を取る」ことをイメージして反対しているように思われるが、実際はそうはならないことに注意を向ければ、ほとんどの反対論の根拠が弱いことに気づいていただけるだろう。

主な反対論とそれについての考え方を、以下に再度整理してみる。


1)「3年も家にいて育児だけしろってこと!?」「私は3年も要らない!」

→3年が長過ぎると思う方は丸々3年取る必要はありません。ご自身にとって最適な期間を取得して下さい。ただし、3年を最長に2年数カ月間や、現行の1年(特別な事情が認められる場合は1年半)よりも長く取得できるなら助かる、仕事を辞めなくても済むという方もいらっしゃいます。そういった方の事情も想像してみてください。

2)「育休3年よりも、時短や保育所増設、男の育児参加の方が先でしょ!」

→ 確かにその通りかもしれません。だからといって、育休3年を強く反対しなくても、各政策を並行して進めるのがよいかと思われます。育休期間の延長は認可保育園の増設と異なり、税金がほとんどかからないので、他の政策実行の障害になるとは考えられません

3)「育休3年なんてニーズないでしょ!」

→既に育休3年生を実施している公務員では、国家公務員に限っても、24ヶ月超の期間取得(つまり3年制を利用)している方が12.1%います。さらに12月超24月以下は33.7%と最多で、45.8%が民間企業の通常の1年の枠を超える期間の育休を利用しています。(先日の投稿参照)先行して3年制を採用している民間企業でも、高島屋では2年半以上の取得が9%、オリックスでは3%というデータが出ています。10%前後の数字は決して無視してよい数字ではありませんし、現行の1年より長めに取得したいというニーズはかなりあると思われます。

4)「3年も会社から離れてたら“浦島太郎”で使いものにならないでしょ!」

法政大学の武石恵美子教授による研究では、85%の管理者が、19カ月以上の育休取得者でも3カ月未満でスキルが休職前の水準に戻ったと回答しており、育休期間が7カ月以上であれば、この数字に大きな変化は見られないという調査結果が出ています。確かに、最初の1,2カ月は職場の勘を取り戻すのに必要かもしれませんが、2、3年職場を離れたからといって全く使いものにならなくなると断定するのは早計かと思われます。

5)「出産の度に3年も休まれるようになると、企業は女性を新卒で雇わなくなる」

→確かに、女性全員が3年間丸々育休を取るようになると、そのような望ましくない副作用が生じることもあるでしょう。しかし、過去の傾向から推測すると、3年近く(2年以上)育休を取得するのは、育休取得者の10%にもいきません。さらに、育休を利用している女性自体が現状(2005-2009年)では24.2%しかいません。女性の多くは結婚または出産を機に退職しており、第一子出産後も就業継続しているのは38%のみです。(参照

育休利用者24.2%のうちさらに10%未満が2-3年の育休を取得すると考えると、女性就業者全体ではわずか2%です。女性100人を雇っても2人しか利用しないであろう制度のリスクをおそれて、本当に女性の採用数を大幅に減らすのでしょうか。私にはそういった経営者は無能にしか見えないので、初めから就職しないようお勧めします。

女性の採用、特に総合職(転勤や長時間労働を前提とした管理職候補)の採用が渋られる理由は、女性の50%以上が結婚と出産を期に退職するからです。育休を2-3年間利用するであろう2%に比べて、50%はかなりの高いリスクになります。経営者としては頭の痛い現実です。

厚労省の調査によれば、出産前に退職した女性の理由のうち、「家事・育児に専念するために自発的に辞めた」という方が39%と最も多く、「仕事を続けたかったが、仕事と育児の両立の難しさで辞めた」の26%が続きます。育休3年制は、育児に専念したいと考えた方にも辞めないという選択肢を考えさせる要因になるかもしれません。つまり、女性の総合職採用を減少させるのではなく、それを控えさえている出産退職率を僅かながらも減少させる可能性があります。

また、育休制度を導入したこと自体が、女性の新卒総合職採用を抑制したという研究もあります。育休利用者は全体の24%なので少なくない数字ですから、これは残念ながら想定され得る結果です。では、育休3年を反対される方は、企業が女性の新卒(特に総合職)を採用しなくなることを理由に、育休制度自体にも反対なのでしょうか?育休制度自体も時短制度も企業は嫌がりますが、その企業視点に合わせるだけでは、改善はできません。

さらに言えば、同研究によると、育休を長めに取るのはキャリア志向の総合職ではなく一般職の方が多く、一般職の女性採用については育休制度導入後も減少していません。総合職に比べ、一般職の休職は低コストで代替が可能であるので、企業としてはさほど痛手に感じていないということでしょう。つまり、育休3年制がしかれても、長期利用者の多くはいわゆる一般職であり、企業としては採用を控えるという行動にはつながらないでしょう。むしろ、期間が1年以内であっても、総合職が育休を取得したり時短を利用することが、総合職採用を控える理由になっています

特に、5)の「育休3年制=女性新卒採用控え論」は広く信じられているようなので、少し詳細にみてみました。反論がある場合は、データに基づく根拠を示していただけると、より前向きで具体的な対策を検討できるのではと思います。

*今回の育休3年論については、安倍首相が企業に要請し、公に発表したにもかかわらず、政府から説得力ある説明がほとんど見られません。そういう意味では、政府の覚悟そのものや、データ分析に基づいて意思決定をしているのか大いに疑問が残ります。その点については、私も危惧しており、育休3年制を採用している公務員や民間企業の実態調査、女性の利用ニーズ、中小企業も含めた影響について、しっかりと調査分析したうえで、実際の制度化を準備することを提言します。

学びのエバンジェリスト
本山勝寛
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