アベノミクスは「最後の賭け」か

小黒 一正

為替レートは1ドル=100円、日経平均は1.4万円を超え、日本経済に明るいムードが漂い始めている。この背後には、「大胆な金融緩和」「機動的な財政出動」「民間投資を喚起する成長戦略」を「3本の矢」とするアベノミクスに対する期待があることは否定できない。

この「3本の矢」のうち、最も注目が集まっているのは「大胆な金融緩和」である。このような状況の中、日銀は2%インフレ目標を達成するため、2013年4月4日の政策委員会・金融政策決定会合において、「異次元緩和」として、マネタリーベースを2013 年末に200兆円、2014 年末に270兆円にすることを決定した。


この関係で、日銀はグロスで毎年約84兆円の長期国債を市場から買い入れる方針である。その結果、日銀が抱える長期国債はネットで毎年50兆円ずつ拡大し、2013 年末に140兆円、2014 年末に190兆円となる見込みである-2012 年末の長期国債は89兆円。

この日銀による毎年84兆円の買入れ(グロス)が、国債市場に及ぼす影響は大きい。財務省が2013年1月29日に公表した国債発行計画によると、長期国債の市中発行額は約127兆円(=国債の市中発行額156.6兆円から短期国債30兆円を除いた値)。日銀は市中発行額の約70%(=84÷127)も買い入れてしまう。

しかし、問題の本質はこの部分ではない。日経ビジネスオンライン「金融政策の出口戦略を考える(2)」でも説明したように、日銀が国債市場に大きな影響を与えないよう配慮すれば、2015年以降も、日銀は長期国債の買入れ(グロス)を急にはやめられない可能性が高い。

その場合、例えば、2015年以降において日銀が買い入れ(グロス)を行う長期国債のボリュームを、毎年5兆円ずつ減少させていくケースでは、簡易試算で、ピーク時の2020年に保有する長期国債は347兆円に達する可能性が高い。

このような状況で、金利が正常化し、貨幣数量説が復活する場合、日銀はインフレ圧力を抑制するため、バランスシートに抱える長期国債のボリュームを減少させ、異次元緩和で膨張させたマネタリーベースを縮小させていく必要がある。

しかし、日銀が国債市場に大きな影響を与えないよう配慮し、国債の買入額を大幅に減少させることができなければ、日銀はインフレを制御できない状況に追い込まれる可能性が高くなる。

このように、金融政策の出口戦略まで予測する場合、アベノミクスは「最後の賭け」のように思えてならない。「リスクのない政策はない」という有識者がいるが、その見解は妥当であるものの、そのリスクが顕在化した場合の弊害の大きさにも注意を払う必要がある。

(法政大学経済学部准教授 小黒一正)