韓国の学習マンガが世界を席巻している件

本山 勝寛

今、日本の小学生の間で流行っている本をご存知だろうか?図書室では予約待ちが殺到し、友達の間でも「次はぼく!」「次はオレ!」と言って、競い合うように回し読みされているほどだという。

それは本というよりマンガだ。そして、ただのマンガではなくいわゆる「学習マンガ」である。さらに、韓国発の学習マンガシリーズなのだ。

その名も「科学漫画サバイバルシリーズ」。宇宙や砂漠、無人島、深海、昆虫といった様々な科学的要素にサバイバル・ストーリーを盛り込んだ、カラーのマンガシリーズで、かなりの巻数を重ねている。



深海のサバイバル (かがくるBOOK―科学漫画サバイバルシリーズ) [単行本]

このシリーズ、なんと韓国で2000万部も売れている大ヒット作。2008年から売られるようになった日本でも「125万部突破」と帯に書かれていた。つまり、ミリオンセラーだ。日本だけでなく、2年前の時点でも中国で300万部、台湾で200万部、タイで150万部と売れに売れ、フランスなど欧米圏でも売れているという。

私の子どもは上がまだ4歳なのだが、書店で児童書コーナーに行くと、たしかにドドーンと並べられている。早速買って息子と一緒に読んでみた。4歳にはまだちょっと早かったようだが、オールカラーでテレビチックな画のタッチが子どもたちに人気なのかもしれない。途中に挿入されているやや文字の多い科学解説は、読めばなるほどと勉強になる。親も勉強になるならと、ついつい財布のヒモがゆるんでしまうのだろう。

実は、韓国では、このサバイバルシリーズ以外にも学習マンガがヤバいことになっている。実に、マンガ市場の約半数を学習マンガが占めているというのだ。「マンガは不良が読むもの、教育によくない」という親の声と表現規制を背景に、一般のマンガが停滞するなかで、逆に高い教育熱に応えるかたちで学習マンガが急成長しているのだ。類似の科学マンガ「Why?シリーズ」は3500万部、「漫画ギリシャ・ローマ神話」も2000万部だ。韓国の人口が日本の半分にも満たないことを考えると、社会現象と言ってもよいだろう。

学習マンガといえば、その元祖はなんといっても日本。マンガ日本の歴史シリーズは各出版社が刊行しており、それぞれ数百万部売れている。私も、全登場人物の名前と顔だけでなく、台詞まで覚えてしまうくらい読みふけったものだ。当然、歴史が好きで得意になったことは言うまでもない。学習マンガだけでなく、日本にはエンターテインメント性が高いが教養も身に着く(あるいは関心のきかっけとなる)マンガが多数ある。フランス革命の「ベルサイユのばら」や、安全保障や核、国連などについて考えさせる「沈黙の艦隊」など枚挙にいとまがない。そういった大人でも「勉強になるマンガ」を政治、経済、会計、日本史、世界史、英語の6ジャンルで紹介し、それらを活用して学びを加速させる読書法を『マンガ勉強法』なる本としてまとめたが、そのくらい日本のマンガは誇るべき文化として高度に発展している。


頭がよくなる! マンガ勉強法 (ソフトバンク文庫) [文庫]

残念ながら、その価値に日本国民が気付いていないので、図書館には学習マンガが置かれていたとしても「大人も勉強になるマンガ」が置かれていないし、韓国のように世界を席巻しようという野望が生れてこない。私は、その野望を秘かに持っているのだが、その戦略については後日談としたい。

学びのエバンジェリスト
本山勝寛
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