「女性手帳」は公共事業 --- ヨハネス 山城

アゴラ

「女性手帳」が出ると聞いて、この御時世に新雑誌の創刊か、と思った。ところが、なんと政府が配る手帳やそうや。こら、まさにビックリや。官製の「」の登場やな。


早速、「結婚や出産などの個人的なことに政府が介入するのか」、というフェミニズム方面からの批判が燃え上がって、またビックリや。橋下市長の問題でも書いたけど、「ト」に対して、変なツッコミを入れると、妙なオーラを帯びることがある。「ト」を開く者は、きちんと締めなあかん。

「女性手帳」がなんで「ト」か、理由は簡単、こんなもんで少子化が緩和できるはずがないことは、誰でもわかるのに、やろうと言い出したヤツがいることや。政治家はともかく、官僚は優秀という話やったんやけど、怪しなってきたんかいな? ……違うやろ。

内容のメインは、「女性は高齢になると妊娠しにくくなります」という話や。近い将来、結婚やら出産やらを考えている人間で、これを知らないやつは、ほとんどおらんやろ。逆に、「少なくとも当分の間は、結婚も出産も考えていない。仕事に専念したい」てなこと、考えておる人には、よくて御節介、悪くとられればイヤミでしかない。

そのどちらでもなく、手帳を見て「じゃあ、いつ作るの。今でしょ」というノリで、子作りに向かう、超ナイーブな人間がいるとしたら、これはこれで、えらい不安や。こういう手合いには、「結婚手帳」「交尾手帳」「妊娠手帳」「出産手帳」「授乳手帳」と次々マニュアルを出さんわけにはいかんやろ。今時、パンダでも、もう少し自主性があるで。

こういうものを、政治的な方向から批判すると、どんどん話が変な方向に行く。「フェミニズムから日本を守れ」、てなこと言い出すヤツが出てきて、「意地でも配布するぞ」モードに突入しかねへん。

これ、なにか既視感があるなと思ったら。わかった、「心のノート」や。ワシ、PTAがらみやらで、いろんな学校見てきたけど、ちゃんと使っているところ皆無や。

これを導入しはった、天国の河合隼雄センセはさぞかしお嘆きやろうけど、お会いしたときにセンセ自身から伺った使用法を考えたら、こんなもん、よほどカウンセリングを鍛えた人にしか、まともに使えるわけがない。少なくとも、只でさえ忙しい小中の教員が、見よう見まねでコなせる代物やない。

そんなわけで、「心のノート」の大部分は、新品のままトイレットペーパーに化けることになった。「女性手帳」も同じやろ。手帳というからには、教科書サイズの「心のノート」の数倍、装丁に手間がかかりそうや。ホンマに、ホンマに、ご苦労さんな話や。

ところで、ひょっとしたら、こういうの、いわゆるひとつの公共事業というやつやなかろうか。検定教科書と違って、誤植に異常なほど神経を使わんでもいいし、採択でヤキモキせんでもいい。刷れば確実に売れる。こんなおいしい利権は他に無いがな。

青息吐息の出版印刷業界に愛の手を、というわけやろうが、そんなことせんでも、この業界、もうじき活気づくで。アベノミクスが特攻回転になったら、造幣局の輪転機から煙が出て、まさかの民間委託や。忙しなるできっと。

え、札束刷れるほど品質に自信がないって? 大丈夫や。こんなもん、なまじ出来がよかったら、掴まされたほうはかえって激怒しよる。もらったときから、「紙切れ感」満載の方が、雰囲気が出てええがな。

でもまあ、将来、ワシの著作集が出ることになっても(お前ら買えよ)、アゴラ出版お手製の軍票による印税だけは、堪忍してもらえんかのう。

ヨハネス 山城
通りがかりのサイエンティスト