本でも人材でも「タイトルは3割」 --- 山口 俊一

アゴラ

伝え方が9割』という書籍が、ベストセラーとなっている。まだ読んだことのない人も、新聞や書店で大きく取り上げられているので、タイトルくらいは覚えているだろう。

一方、2005年に出版された『人は見た目が9割』という本もベストセラーとなり、当時話題になった。


「伝え方が9割」と「見た目が9割」。もし両者とも、他人に対する印象や影響度について述べたものだとすると、少なくともいずれか一方の本は誤ったことを言っていることになる。ただし、私は検証する術も持ち合わせていないし、白黒つけることにあまり意味はない。

明らかなことは、両方の書籍ともベストセラーとなり、多くの読者の支持を集めたということだ。

ここまで聞いただけだと「きっと、9割などとインパクトのあるタイトルをつけたから売れたのだろう」と判断する人もいるに違いない。

確かに、これまでベストセラーになったビジネス書を思い起こせば、

・さおだけ屋はなぜ潰れないのか?

・もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら

・バカの壁

・国家の品格

などインパクトのあるタイトルは少なくない。

しかしながら、ためしにAmazonで「9割」と打ち込み、書籍を検索してみるといい。すぐに、数十冊の「9割本」が出てくるだろう。しかも、そのほとんどは特に人々の記憶にも残らず、重版されることもなく、あまり売れなかった書籍たちだ。

もちろん本にとってタイトルは非常に重要だ。タイトルの付け方によって、売れたり売れなかったりする。だが、タイトルはあくまでその本に興味をもってもらうためのきっかけにすぎない。もしタイトルのインパクトに対して中身が伴っていなければ、ベストセラーにはならない。

芸能界でも、無名の芸人が売れるためには、オリジナリティーの高いネタやインパクトのあるギャグなど、まずは世間の注目を集めるためのきっかけは重要だが、それだけでは人気は長続きしない。その後は、トークの面白さや受け答えの勘の良さ、人柄の良さなど、さまざまな要素が求められる。

書籍もタイトル自体は、売れる要素の3割程度ではないだろうか。決して小さくはないが、決定的な要素でもない。

会社員でも同じことが言える。

社内外で注目されるには、まずは特技やセンスを持っていたほうがいい。それがないなら、がむしゃらさなど、意欲を見せるのもいいだろう。でも、それだけでは長い長いビジネスマン生活を乗り切ることはできない。

セールスマンでも、口が上手ければ売れるというわけではない。最初はいいかもしれないが、継続して買ってもらうためには、専門スキルのほかに、約束を守る、本当に相手のためになろうとする姿勢など、顧客から信用を得ることが求められる。

若い人たちの間では、まずは特技を身に着けようと、語学や資格取得に熱心な傾向も根強いが、それらはあくまでタイトルに過ぎないことを理解してもらいたい。

山口 俊一
株式会社新経営サービス
人事戦略研究所 所長
人事コンサルタント 山口俊一の “視点”