就職サイトの功罪。……それは当てる光の角度によって変わってくるものですが、明るい話からしますと、「働きたい人」と「働く人を探している企業」のマッチング市場をネットの特性を活かした形で発展させることで、より多くのマッチングを成立させるシステムを軌道に乗せた。その実績は本当に素晴らしいことであると思っています(新卒での就職であれば、学生は万を超える求人情報にアクセスすることができます)。
一方で、暗い話は何か?
耳を澄ませば「学生の過剰エントリーによって、企業研究不足や説明会参加枠の争奪戦、説明会・選考のドタキャンの多発などの各種問題を誘発したインスタントな応募システムを作ったことが就職サイトの罪過だ」というような声が聞こえてきそうです。しかし、自分の頭で考えてみると、「企業を評価する新しいモノサシを提示できていないこと」が就職サイトの罪過であるという答えに達します。今、普及しているモノサシとしては、
業界・業種(知名度)
待遇・福利厚生
業績
教育・研修制度
従業員数
というようなものが挙げられます。そして、これらのモノサシで企業を測った際に、「待遇が良い」「待遇が悪い」といった評価の高低によって、大企業・中小企業に分類されていきます。分類されること自体は問題ではないのですが、分類された結果として、大企業は中小企業よりも優れている(中小企業は大企業に劣っている)というレッテルが貼られることが問題だと感じています。大企業・中小企業という分類は、たんなる「違い」でしかないのに、それが「優劣」として扱われる状況を問題視しています。
皆さんは、こういった言葉に出会ったことはないでしょうか?
「今は大企業でさえ厳しい時代だ」
「中小企業まで視野を広げれば就職先はある」
「大企業でなくても良い中小企業はあるよ」
このような(優劣意識が垣間見える)言葉に溢れているのが日本の新卒採用マーケットであり、結果として、学生は大企業に集中しているように見えます。
私は、働く側が、もっと違うモノサシで「も」企業を評価してほしいと思っています。そして、人と組織を接続させる役割を担っている就職サイトだからこそ「企業を評価する新しいモノサシ」を提示するべきであり、提示できるとも思っています。
なぜそう思えるのか? それは、私が就職サイト運営会社で働いており、その内部者としての目には「企業を評価する新しいモノサシ」の提示に挑戦する就職サイトの様子を見ることができるからです。
●企業を評価する新しいモノサシの芽
たとえば、Wantedlyという就職サイトでは、「なにをやっているのか」「なぜやるのか」「どうやってやっているのか」というようなモノサシで求人情報を表現しています。さらに、人のつながりによって企業との出会い方をデザインされている点も素晴らしい。
また、日本仕事百貨という求人サイトでは「地域にねざす」「日本の伝統」「世界をよりよく」というようなユニークなモノサシで求人情報を整理しています。そして、求人情報をデータの集合体ではなく、一つの物語として表現している(ように見える)点も素敵です。その物語性自体がモノサシであるように感じられます。
ちなみに、私が働くジョブウェブでは、求人情報に限らず「プログラミング学習」「海外でのインターンシップ」などの様々な経験を積む機会を提供しています。そういった経験を通して、自分で、自分に合う企業を判別するためのモノサシを見つけてほしいというスタンスを取っています。
上に挙げた就職サイト以外にも、こういった動きは見られますが、いずれもリクナビやマイナビと比較すると小規模であり、インパクトに欠けるところがあります。
おそらく、当面は「業界・業種(知名度)」「待遇・福利厚生」「業績」「教育・研修制度」「従業員数」というような大企業と中小企業に分類するモノサシは健在だと思われますが、大企業と呼ばれる企業群であっても状況が芳しくない昨今、そういったモノサシに依存せずに、それぞれの就職サイトが提示する新しいモノサシを使ってみることを働く側にはお勧めしたいです。
企業の皆様におかれましても、自社の魅力が際立つモノサシは何なのか? を追求頂けますとマッチングが捗ると思う次第です。
池田 信人
株式会社ジョブウェブ
個人ブログ