密接に連携する欧米各国の情報機関 --- 長谷川 良

アゴラ

オバマ米大統領は英・北アイルランドで開かれた主要8カ国(G8)サミット会議(17、18日)後、ベルリンを初めて公式訪問した。滞在中、メルケル独首相、ガウク大統領等らと会談したほか、ブランデンブルク門前で演説し、核兵器削減をロシア側に提案した。そして25時間余りのベルリン滞在を終え、ワシントンに戻っていった。

注目された欧州連合(EU)の盟主ドイツのメルケル首相との会談では、米国家安全保障局(NSA)が「プリズム」と呼ばれる監視プログラムを実施し、米国民の電話通信記録やネット情報を大量入手していた件について、「意見の交換が行われた」という。米国の情報収集が米国内だけでなく、欧州を含む全世界を網羅していたことから、欧州の政治家、国民の間にも米国の情報活動に批判の声が挙がっていた。それだけに、オバマ大統領の説明に注目が集まったわけだ。


ベルリンからの情報によると、「プライバシーの保護とテロ対策の間のバランス」を最大限に考慮することで両首脳は一致したという。メルケル首相がオバマ大統領を激しく追及するシーンもなく、外交的な表現で終始したという。

それでは、9月末に連邦議会選挙を控え、国民の関心が高い米情報活動問題でなぜメルケル首相はオバマ大統領を強く批判しなかったのだろうか。ゲストを最大限にもてなさなければならないホスト国の義務感からだろうか。

その答えは明瞭だ。独連邦情報局(BND)が久しくNSAの情報の恩恵を受けているからだ。独週刊誌シュピーゲル最新号(6月17日号)は「イスラム過激派が2006年、ドイツ国内で大規模なテロを計画していたが、NSAから関連情報を事前に入手したBNDはテロ容疑者を拘束し、テロを未然に防止したことがある」と紹介し、NSAとBNDの両国情報機関の連携ぶりを報じている。

考えてみてほしい。恩恵を受けているドイツが情報提供国の米国をどうして批判できるだろうか。メディアと国民の手前、少しは苦情を披露しなければならないが、米国の情報活動全般を批判することは出来ない、というのがメルケル首相の立場なのだ。

一方、情報大国の米国も同盟国の情報機関との連携が不可欠だ。実際、米情報機関は世界の情報機関、特に、英国、フランス、ドイツの情報機関とは密接な連携をしている。

だから、米中央情報局(CIA)元技術助手エドワード・スノーデン氏(29)がNSAが「プリズム」と呼ばれる監視プログラムを実施し、米国民の電話通信記録やネット情報を大量入手していると暴露した時、困ったのはNSAだけではなく、欧州の情報機関も同様だったというのだ。

NSA活動を批判した欧州の政治首脳がいたとすれば、それはあくまでも国内向けのジェスチャーに過ぎない。シュピーゲル誌は「ベルリンのNSA批判はまさに偽善そのものに過ぎない」と指摘しているほどだ。同誌によれば、BNDも独版ミニNSAを密かに計画しているというのだ。

ウィーンが北朝鮮の欧州拠点であった時、当方は、韓国の国家情報院関係者と日本の公安外交官が定期的に会食し、情報交換をしていたのを頻繁に目撃してきた。グローバルな世界では情報収集は一国では不可能であり、他国の情報機関との連携なくして信頼性のある情報は入手できないのだ。情報大国・米国も例外ではないのだ。


編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2013年6月21日の記事を転載させていただきました。
オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。