高市早苗さんがまた「内部留保」を問題にしています。「使途を明示」って企業の損益計算書にはすでに明示されているのですが、何をしろというんでしょうか(2013年6月25日の記事の修正版)。
松下政経塾出身の高市氏が「内部留保の使途明示」を主張。
しかし、既に財務三表等で内部留保(利益剰余金)の運用の仕方は現金や土地等の形で示されており、不要な規制となります。
国家が企業を管理下に置く国家社会主義のような発想に松下幸之助氏はどう思われるでしょうか。https://t.co/ccvAFD6uUc— 幸福実現党政務調査会 (@hr_party_prc) September 20, 2024
これは「内部留保に課税しろ」という高市さんの持論を遠慮がちに言ったものでしょう。共産党の志位委員長と同じ意見ですね。
大企業にとって内部留保は、人間に例えると「脂肪」みたいなもの。なくなると不健康ですが、つきすぎても不健康です。積み上がりすぎた大企業の内部留保を、政治が適切なところまで絞ってあげる。そうすれば企業も、経済も、暮らしも健康になり、好循環が始まります。 https://t.co/TeNhCGgnzb
? 志位和夫 (@shiikazuo) May 30, 2022
Q. 内部留保って何ですか?
内部留保という言葉は、企業会計にはありません。これは法人企業統計で純利益の中から配当や役員報酬などを引いた利益剰余金や直接投資などをまとめて分類したものです。
図1
Q. 内部留保は余ったお金なんですか?
内部留保は現金とはかぎりません。これに対応するのは図1の左側(資産)の中の「現預金」だけではありません。たとえば100億円かけて工場を建てた場合、10年償却で今年10億円の費用が計上されたとすると、あとの90億円が利益剰余金ですが、これは金庫に眠っているわけではありません。
図2のように、現金として保有されているのは利益剰余金の半分ぐらいで、あとは土地・建物・設備などの固定資産が多い。これを売ると、企業は生産ができなくなります。
図2(法人企業統計)
Q. では内部留保は何に使われてるんでしょうか?
法人企業統計は配当と役員報酬以外をまとめて「内部留保」と分類しているので、経済全体では550兆円と大きいようにみえますが、大部分は図3で「その他固定投資」となっている項目です。
図3(門間一夫氏)
これは実際にはほとんどが海外法人の「外部留保」で、2010年代に黒田日銀のゼロ金利による産業空洞化で大幅に増えました。
Q. 内部留保を従業員に分配して賃金を上げろと共産党はいってますが?
利益剰余金は、賃金を払ったあとの利益ですから、そこからさらに賃金を払うのは賃金の二重取りです。これは株主の資産ですから、「もっと配当しろ」とか「自社株買いしろ」というなら筋は通ります。
Q. 内部留保に課税するってどういう意味ですか?
図1でもわかるように、内部留保(利益準備金)は負債の内訳なので、借金に課税することはありえません。法人税は税引き後利益から払う配当に所得税をかける二重課税なので、内部留保課税は三重課税になります。
Q. 内部留保に問題はないんですか?
日本の企業の利益剰余金の半分近くが、預金として保有されていることには問題があります。これが日本経済の活力を失わせる貯蓄超過です。そもそも企業はお金を借りて投資するのが仕事なんですから、預金が200兆円以上もあるなんておかしい。
Q. なぜ企業が貯蓄するんですか?
その最大の原因は有望な投資機会がないからです。これが「デフレのせいだ」というのは因果関係が逆で、企業の資金需要が減るために貸出金利が下がり、ゼロに貼りついてデフレになるのです。それは国内市場が縮小し、法人税が高く、雇用規制がきびしいからです。
Q. 日本の会社はどうすればいいんですか?
日本の会社の問題は「内部留保」を労働者に分配しないことではなく、国内投資に回さないことです。これが投資として使われるようになれば、それは企業の収益も上がり、賃金も上がるでしょう。
Q. 政府は何をすればいいんですか?
企業貯蓄を減らすことが目的なら、高市早苗さんの提唱する預金課税も一つの方法ですが、これは取り付けを引き起こして金融危機をまねくので危険です。
大事なことは貯蓄を減らすのではなく、投資を増やすことです。そのためには投資減税も必要ですが、アジアでいちばん高い法人税を減税して空洞化を止めるとか、海外から半導体工場を誘致するとか、できることはたくさんあります。
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[…] る」と発言して、「共産党はこわい」と話題になっていますが、これは昔からある話です。2013年6月25日の記事の修正版です。 大企業にとって内部留保は、人…このサイトの記事を見る […]