鳩山元総理だけを責められない尖閣問題発言 --- 渡辺 龍太

アゴラ

最近まで、尖閣に関する暴走老人と言えば間違いなく石原慎太郎議員の事だったが、どうやら少し若い鳩山元総理(66歳)にお株を奪われてしまったようだ。先日、鳩山元総理は香港のテレビ局のインタビューで、日本が尖閣を中国側から盗んだと思われても当然であると発言した。それを受けて、菅官房長官は断じて許せないと述べ、古巣の民主党の海江田代表も不快感を示すなど日本中を騒がせている。


当然、ネットでも信じられないとの声が多数上がり、青山繁晴氏に至っては外患誘致未遂容疑という日本に外国と組んで攻撃させる事を罰する法律を根拠に逮捕すべきだ、とまでテレビで述べた。一般的に政治家が失言などをした場合、最終的には除名や辞任で決着が付くことが多い。しかし、現在の鳩山氏の立場は「元総理」であるので、その肩書きを取り上げる方法などは一つもない。なので、鳩山氏の暴走を止める手立ては逮捕しかない、という青山氏の主張も分からなくはないのだが、私は鳩山氏を責めるだけでは、再び第二の鳩山氏がすぐに誕生してしまうだろうと危惧している。

日本は言論の自由が保証されている国なので、鳩山氏のように国民なら誰でも知っている知名度があり、Twitterで何十万人もにフォローされているような人物であっても、基本的には日本が尖閣を中国から盗んだものだ、と発言しても何ら問題はない。しかし、鳩山氏は日本国の総理大臣経験者なので、その発言の重みは一般人とは別次元にある。鳩山氏に「元総理」という肩書きがあるから、今回の尖閣の発言が大問題になるのだ。

では、そんな鳩山氏を総理大臣にさせたのは誰なのか。それは、日本国民に他ならない。なので、私は今回の鳩山尖閣発言において、鳩山氏だけでなく日本国民も責任を感じるべきだと思う。

まず、鳩山氏が総理大臣になる前に、どんな発言をしてきた人物なのかを振り返ってみたい。靖国を参拝した麻生総理に対して、「靖国参拝を中止しない限り、韓国・中国の信頼は取り戻せない」と批判している。また、総理になる直前には「日本列島は日本人だけの物ではない」とも発言している。さらに、民主党自体も景気や年金と同じくらいに東アジア共同体や外国人参政権の成立に力を入れたり、沖縄に移民を1000万人入れよう、と掲げていた。

これらの発言から、鳩山氏は外国人に寛容な社会を目指しており、特に中国や韓国に対しては日本が折れる事での協調を考えている人物だという事が簡単に分かる。今回の鳩山発言も過去の発言を振り返ると、その延長にあるだけにも見えてくる。なので、鳩山氏がそういう人物であるとわかっていて、あるいは単に自民党が嫌いだからという理由で鳩山氏がどんな政治思想を持っているのかを考えずに民主党に投票した国民は、鳩山氏を非難する資格が無い。鳩山氏自身も同じ様な主張をし続けて300議席以上も獲得して総理大臣になったのだから、自分の考えに賛同する国民が多数いると思っていて当たり前である。恐らく、鳩山氏は安倍総理の外交を中国を封じ込めとも感じ、心の底から日本国のためを思って行動をしているのではないだろうか。

このように書くと、マスコミが異常に自民党をバッシングし、民主党を持ち上げたのがいけない、と反論する人もいるだろう。だが、私はマスコミよりも国民の責任の方が重いと考える。

確かに、マスコミの自民党や当時の麻生総理に対する批判は、少し異常なレベルに達していたかもしれない。しかし、そのバッシングも本当に真に受ける必要があるのかどうかを考えれば、必ずしもそうとは限らないと直ぐに分かる事ばかりだった。例えば、70歳前後の麻生氏が、カップラーメンの値段をよく知らない事の何がいけないのかはよくわからない。恐らく、麻生氏と同年代の人にアンケートを行っても、そんなにカップラーメンの値段を正確に把握している人ばかりではないはずだ。

他にも会員制のバーに通っている事などをマスコミは非難していたが、それが特に大きな問題で無い事など、考えれば直ぐに分かる事だ。

私もマスコミの人間として言いにくいが、ビジネスの関係上、一人でも多くの人に出版物や放送を見てもらう必要があるので、報道であっても所詮は国民に必要だと思われる情報を正確に伝える事よりも「ウケ」が良さそうな事が優先される。こんな事くらい、マスコミで働いていなくたって常識と言えるのではないだろうか。そんなマスコミの言う事を鵜呑みにして、鳩山氏がどんな思想の人物かを全く考えずに投票した国民が、今回の鳩山発言を非難することは出来無い。自業自得としか言いようがない。日本は国民主権の国なので、本当の意味での政治の責任は、全て国民が負うしか無いのだ。

今の時代、テレビや新聞だけが情報源ではない。次の選挙から解禁されたインターネットを使えば、さらに細かく政党や立候補者の情報が分かるはずだ。

政治家に文句を言うのであれば、その政治家を選ぶ国民は真剣に政治家選びを行わなくてはいけない。現状は、どうも飲み会の幹事を誰かに押し付けて、手伝いもせずに店の文句を言っているだけの人とたいして変わらない。そんな状態は改め、政治の結果責任も国民自身が負うという気持ちで、国民一人一人が投票する事に頭を使って時間を割く必要があるのではないだろうか。鳩山発言をきっかけに次の参院選挙から、国民一人一人の政治責任を考えて投票する人が増える事を期待したい。

渡辺 龍太(わたなべ りょうた)
World Review編集長

十代後半で単身渡米し、ニューヨークやカリフォルニアで学生映画の出演や制作などをしながら4年過ごす。帰国後、テレビ制作会社の業務委託でNHKのニュース番組のディレクターを勤めた。その時に得たニュース制作のノウハウを使ってネットメディアWorld Reviewを2013年5月に設立。現在はWRの編集長としての活動や、テレビやラジオに出演している。
Twitter @ningenhyoron
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