シエスタをめぐる文化闘争 --- 長谷川 良

アゴラ

スペインは昨年秋以来、シエスタ(Siesta、昼休み、午後1時から午後4時頃)を廃止し、その代りに、生産性の向上に励むこととなったが、「シエスタは何世紀を続いてきたわが国の生活様式であり、文化だ。それを生産性を高めるために放棄することは固有の文化を捨てることに等しい」という声が聞かれ、シエスタの廃止を強制したドイツを含む北欧諸国に批判の矛先を向ける国民が出てくるなど、シエスタを巡り文化闘争の様相を深めてきた。


独の著者マックス・へファー氏は独週刊誌シュピーゲルに掲載したエッセイの中で、「南欧諸国のラテン的な生活様式がドイツのプロテスタンティズムの労働倫理の批判にさらされている」と述べている。

スペインでは夏、昼食は家に戻り、数時間、家族と一緒に食事をした後、仕事を再開する。もちろん、暑い日中、能率的な労働は難しい。昼休みをして疲れを取る、というそれなりの健康管理がある。一方、欧州経済の牽引者、ドイツ人の目から見れば「国民経済が破産寸前で、借金が山積しているのに呑気に長時間、昼休みをしている時ではない」という不満と軽蔑の声が飛び出してくるのもこれまた当然かもしれない。

独の社会学者マックス・ヴェーバーの「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」によれば、仕事は神が与えたものであり、その恩恵に報いるためにも一生懸命働き、富を築くことは当然だ。その勤労時間に長い昼休みを取るのは怠慢以外の何物でもない、といった考えが強い。

米国の政治家ベンジャミン・フランクリンは有名な「時間は金なり」といったといわれる。与えられた24時間、富を蓄えるために働くことが人間としての使命というわけだ。

へファー氏は「ドイツ人の勤労精神はヴェーバーのプロテスタンティズムの労働観だ。それをイタリア、ポルトガル、スペインといったラテン系民族国家に強いることは無理がある。スペイン人がドイツ人のようにはなれない」と同情をしている。

シエスタを廃止したスペイン政府側は「会社内や工場内は冷房があれば、仕事に支障はないはずだ」と説明、シエスタを廃止したとしても労働者の勤労に余り影響がないと受け取っている。

当方の個人的な体験からいえば、昼食後、仕事に集中するのは容易ではない。1時間、最大2時間昼寝を取り、頭をスッキリさせて仕事に取り組むほうが能率的だ。

長い歴史の中で培われた風習や慣習はそれなりの理由があるものだ。金融危機だから休まず働け、といったわけにはいかないだろう。怠け者とドイツ人にいわれたとしても、当方はシエスタを支持する。

ちなみに、シエスタを取ったとしても、スペイン人の実質労働時間はドイツ人と大きくは変わらない、という意見もある。午後6時以降も働くケースがあるからだ。


編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2013年7月2日の記事を転載させていただきました。
オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。