資源エネルギー庁の中では、ガス事業法(昭和29年法律第51号)と電気事業法(昭和39年法律第170号)はよく並び称されるし、比較されることがある。エネ庁の電力・ガス事業部が両法を所管し、関連行政を担っている。それぞれの目次を見れば何となく法体系もよく似ていると思う人は多いだろう。
先の国会で廃案になった(が、同じものが再提出されればあっという間に成立するであろう)電気事業法変更案の根拠とされている“電力システム改革”の報告書でも、“電力システム改革を貫く考え方は、同じエネルギー供給システムであるガス事業においても整合的であるべきであり……”と書かれている(というか、無理やり誰かが書かせたのであろう)。
しかし、この2法は根本的なところで異なる。それぞれの法目的に端的に表現されている。
<ガス事業法第1条>
この法律は、ガス事業の運営を調整することによつて、ガスの使用者の利益を保護し、及びガス事業の健全な発達を図るとともに、ガス工作物の工事、維持及び運用並びにガス用品の製造及び販売を規制することによつて、公共の安全を確保し、あわせて公害の防止を図ることを目的とする。
<電気事業法第1条>
この法律は、電気事業の運営を適正かつ合理的ならしめることによつて、電気の使用者の利益を保護し、及び電気事業の健全な発達を図るとともに、電気工作物の工事、維持及び運用を規制することによつて、公共の安全を確保し、及び環境の保全を図ることを目的とする。
「(それぞれの)事業の健全な発達を図る」ための手段が微妙に異なることにお気付きだろうか。電気事業の場合には「電気事業の運営を適正かつ合理的ならしめること」とされているのに対して、ガス事業の場合には「ガス事業の運営を調整すること」とされている。書き方としては小さな違いに見えるが、内容的にはあまりにも大きな違いである。
尚、後段の「環境の保全」(電気事業法)、「公害の防止」(ガス事業法)の違いは、環境アセスメント法との関係の違いである。これはこれでまた激しいドラマがあったし、今でもあるのだが、それらは別途の機会にまた。
「ガス事業の運営を調整すること」こそ、一般ガス事業vs一般ガス事業、一般ガス事業vs簡易ガス事業、更には天然ガス(LNG・国産NG)vs液化石油ガス(LPガス)の利権争奪戦の仲裁をしながら、意図的にも結果的にも、大手都市ガスの供給区域拡張を国家政策として推進してきた歴史そのものだと思われる。
電力会社の敵は今や政府やマスコミであるが、震災前は大して敵はいなかった。電気という財の特殊性ゆえである。電力会社の前では、ガス会社も石油会社も新規参入予定者も、敵ではない。それは、今後も殆ど変らないと予想する。
ところが、ガス会社(都市ガス、団地ガス、LPガス)はそうではない。敵は政府やマスコミだけではない。『オール電化』を引っ提げて営業攻勢を仕掛けてくる電力会社や、石油会社だけでもない。まさにガス会社が最大の敵なのである。その意味するところは、石油会社やLPガス会社、オール電化で攻めてくる電力会社とは市場競争の場で立ち向かうのだが、同業他社であるガス会社が攻めてくることに対してはガス事業法を盾に防戦する姿勢を続けていることについてである。
成長期の制度の名残だ。成長期の日本で、公益事業であるガス事業を伸ばすという政策的要請に応えるには、人口と需要が集中している都市部のガス事業、いわゆる都市ガスの事業の拡張を法的にも強力に支援する必要があった。それでも一般ガス事業の供給区域は、全国大で見ても、首都圏のある関東大で見ても、小さいままだ。今後はどうであろうか。
電力市場と違って、競合者が多数いるガス市場の将来を俯瞰するに、法的な事業調整がもはや不要になって久しいのではないだろうか。これまでのガス事業に係る自由化政策により、一般ガス事業は年間10万m3以上まで、簡易ガス事業は年間1000m3以上まで、それぞれ料金規制は撤廃されている。LPガス販売事業にはそもそも料金規制はないし、ガス事業との法的な事業調整もない。
一般ガス事業と簡易ガス事業の自由化範囲の違いを今後どう考えるべきかというのも非常に大きな論点になるだろう。行き着く所はやはり、“一般ガス事業の供給区域”の在り方をどうするかに尽きる。少なくとも、ガス事業者の間の法的な事業調整の役割は、そろそろ本当に終わらせるべきである。
編集部より:この記事は石川和男氏のブログ「霞が関政策総研ブログ by 石川和男」2013年7月2日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった石川氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は霞が関政策総研ブログ by 石川和男をご覧ください。