エジプトの行方について聞く --- 長谷川 良

アゴラ

エジプトのモルシ大統領が軍によって解任された後、大統領の出身母体のイスラム組織、ムスリム同胞団は軍の政権掌握に抗議、全土で大規模デモを実施するなど、同国の政情は危機的な段階を迎えている。そこで欧州の著名な中東問題専門家アミール・ベアティ氏(イラク出身)にエジプトの政情について緊急インタビューした。


▲中東問題専門家のべアティ氏


──民主選挙で選出された大統領が軍に解任された。軍クーデターと呼ぶべきか。エジプト軍のクーデターは合法的か。

「軍が政権の実権を奪ったという点は正しいが、クーデターではない。軍は国民の声を聞き、立ち上がっただけだ。軍が立ち上がらなかった場合、内戦が勃発する危険があったからだ。ムスリム同胞団は政党としてその役割を果たせず、モルシ大統領は他の政治勢力との対話を拒否し、姑息な政策を駆使、政策も一貫性がなかった。大統領が大多数の国民の声に耳を傾けず、独裁的な政権運営で権力に固守し、大多数の国民の要望を無視し続けたならば、内戦が勃発する危険性があった」

──モルシ大統領は政権に就任して1年しか経過していない。1年で政治改革や国民経済の回復を実現できる政権は欧米諸国でも稀ではないか。

「1年間は短いが、短期間でモルシ大統領ほど多くの失政を繰り返した政治家を知らない。憲法協議でもイスラム教徒の声は聞くが、国民の半分を占める世俗的な国民の声を無視した。議会、政権の発足でも大統領はムスリム同胞団の声だけを聞き、政治を行ってきた。国民の半分が世俗的なエジプトではそれは大きな問題だ。司法界にもその独裁的なやり方が及んだ。軍はエジプトでは唯一、機能する機関だ。軍の政治介入は良くないが、軍が静観していたならば、内戦が生じただろう。あなたはどちらを選択するか。軍の介入か、それとも内戦の勃発を甘受するか」

──軍の政権掌握で政情は安定化するのか。

「軍は多分、ムスリム同胞団の政党結成を禁止するだろう。宗派グループの政党化は好ましくないからだ。宗教と政治の分離が近代国家の基本だ。モルシ大統領は民主主義を理解していなかった。ムスリム的(宗教的)独裁的なやり方で政権を運営してきた。前回の選挙でムスリム同胞団が勝利できた背後にはカタールからの経済的支援があったからだ。その資金で貧しい国民に食糧、油など生活品を提供し、国民の支持を得てきたのだ」

──カタールは過去、エジプトのムスリム同胞団の選挙運動を支援してきたのか。

「その額は数億ドルとも推定されている。カタールはエジプトのムスリム同胞団を支援してきた。ちなみに、同国のアルジャジーラ放送もムスリム同胞団系だ」

──軍が国民の声を聞いたというが、カイロの広場に集まり、デモ集会した国民の政治信条は一つではない。リベラル派からキリスト教少数派などさまざまだ。

「大多数の国民の最大関心事は停滞する国民経済の回復だろう。野党側の関心事、政治信条はさまざまだ。彼らの間で連携する動きはまだ見られない。野党も国民も民主主義を学んだことがない。それは今後の課題だろう」

──軍は、近い将来、民主選挙を実施すると約束したが、前回の選挙と同様、ムスリム同胞団が勝利する可能性も考えられるのではないか。

「国民は次回はムスリム同胞団系政党には投票しないだろう。大多数の国民は失望したからだ。先述したが、軍は宗教団体の政党結成を禁止するだろう。ムスリム同胞団はパキスタン、アフガニスタン、サウジアラビアなど世界のテログループの母体だ。同胞団内の過激派が軍主導の新政権に対してテロ攻勢で復讐してくるだろう。その意味で、エジプトはここしばらくは政情不安定が続くことが予想される」

──最後に、米国はエジプト軍のクーデターをどのように受け取っているのか。

「米国とエジプト軍の関係はムバラク政権時代から続いている。オバマ米政権はエジプトで軍が政権を掌握したことを受け、これまで以上にエジプトの民主化に関与してくることが予想される」


編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2013年7月6日の記事を転載させていただきました。
オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。