国際原子力機関(IAEA)前事務局長のモハメド・エルバラダイ氏(71)が6日、エジプトの暫定首相に任命されたというニュースが流れたが、「任命されていない」という情報が後からきた。暫定政権側は知名度の高い同氏を首相に担ぎ出そうとしたが、イスラム系政党の強い反対に出会ったからだ。
国際的知名度の割に、同氏には多くの敵がいる。そして無条件で同氏を称賛する人は案外少ないのだ。その辺を少し読者に説明しよう。
正直に言えば、エルバラダイ氏の気質に、解任されたモルシ前大統領のそれと酷似したものを感じる人が多いのだ。独裁的気質だ。IAEA事務局長時代の12年間、同氏は独裁的で野心家だった。
同氏の知名度を高めたノーベル賞平和賞受賞(2005年)も同氏の功績というより、メディアを利用したPR活動の成果というのが一般的な受け取り方だ。実際、北朝鮮、イラク、イランの核問題は解決されるどころか、一層難しくなった。その一方、同氏は毎週、CNN放送、ロイター通信などご贔屓のジャーナリストのインタビューに応じ、メディアの世界で常に顔を出し続けていた。その成果がノーベル平和賞受賞となったのだ。
実績もなく平和賞を受けた受賞者はオバマ米大統領だけではないのだ。エルバラダイ氏の場合、残念ながら受賞に値する成果はなかった。だから、受賞直後の記者会見でオランダのラジオ放送記者から「あなたの実績は何ですか」という質問が飛び出したわけだ。その質問に本人は面食らったかもしれないが、多くの記者たちは同放送記者と共通の思いだった。
過去を振り返ってエルバラダイ氏を批判するのはよそう。エジプトが燃え上っているのだ。お前は昔、どうだった、こうだった、と叱咤している間に火の粉は拡大していく──その通りだろう。しかし、エルバラダイ氏と同郷のIAEA職員が「あいつ(エルバラダイ氏)が大統領になったら大変だ。絶対阻止すべきだ」と言っていたことを当方も忘れることができないのだ。
エルバラダイ氏はIAEAを退職し、エジプトに凱旋帰国した時、直ぐにもムバラク大統領の後継者に選出されるのではないか、とメディアばかりか本人も考えていただろうが、組織力で他を圧倒していたムスリム同胞団出身のモルシ氏が大統領に就任した。エルバラダイ氏もエジプトの政情の難しさを肌で感じたことだろう。
ひょっとしたら、エルバラダイ氏はその知名度で国際的人脈を有しているかもしれないが、同時に、国内に多くの敵を抱えている。エジプトの政情にとって、同氏を政治の表舞台に引き込むことが得策か、もう一度冷静に考えなければならないだろう。
編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2013年7月9日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。