「旧約聖書の中には、国王が堕落し、それを支えるべき祭司長(宗教指導者)が神の教えから遠ざかった場合、その国は敵国に侵略されて消滅していった、といった話が記述されている。政治を司る国王と神の教えを述べる祭司長が躓いた国は国家を維持できなくなる。換言すれば、『政治』と『宗教』の責任者がその使命をまっとう出来なかった場合、国を失うというわけだ」
当方はこのコラム欄で「『国王』と『祭司長』が堕ちる日」(20102年5月28日)というタイトルで上記のように書き、国を司る政治関係者とその精神を主導する教会が堕ちる時、国は崩壊の危機に瀕すると述べた。
欧州の財政危機以来のスペインの状況を見ていると、その思いを改めて強くする。ただし、スペインの場合、「王室と政府が崩れる時」だ。具体的には、スペインの国王フアン・カルロス1世の失墜とラホイ政権の腐敗だ。
カルロス1世は一時期、国民の人気を享受した。2007年11月、チリで開催されたイベロアメリカ首脳会談で自国の前首相を批判するベネズエラのチャべス大統領に対し「黙れ」と一括して男を上げたが、女性問題で躓いた。その後、カルロス国王夫妻は離婚寸前だ。オランダ、ベルギーの王室についで、国王の退位が時間の問題とみられる王室だ。ただし、フェリベ皇太子夫妻も度々危機説が流れるなど、噂が絶えないカップルだ。
一方、2011月12月発足した保守派のラホイ政権は現在、汚職、腐敗問題で満身創痍、といった状況だ。ラホイ首相の与党国民党が建築業界から巨額の賄賂を受け取り、党運営資金に利用する一方、ラホイ首相自身、その一部を個人口座に入れていたことが発覚したからだ。失業者が増加、青年の失業率は50%を超えるスペインの政権担当者が大手建築業者から賄賂を得ていたことが判明し、国民の間で首相の辞任要求が高まっている。ラホイ首相自身はその腐敗問題を否定しているが、その賄賂話は与党元財政担当幹部ルイス・バルセナス氏が検察側に漏らしたもので、信頼性は高い。
ちなみに、トランスペアレンシー・インターナショナル(TI)の最新調査結果によると、スペイン国民の83%は、政党が最も腐敗した機関と信じている。
さて、あなたがスペイン国民とする。あなたはどこに信頼を寄せることができるだろうか。カトリック教国のスペインでも聖職者の未成年者への性的虐待問題などで教会の信頼は揺れている。国王は自身の女性問題やソフィア王妃との関係で忙しく、国民の精神的支柱からは程遠い。政府は腐敗汚職の沼の中に沈んでいる。青年の失業者問題を解決するだけの知恵もクリーンさもない。これがスペイン国民が現在、直面している現状だ。
「国家の崩壊」とは、国民が信頼できる機関を完全に失った状況を意味するとすれば、スペインは今、その危機に直面している。
編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2013年7月12日の記事を転載させていただきました。
オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。